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競合商品の美容アフィリエイト広告の発信者情報開示(認容)


ポイント

 ウェブサイトに自社商品の悪評が書かれている場合、どのような対応をすることが考えられるでしょうか?個人が運営するウェブサイトの場合、そもそも誰が運営しているのかが分からず対応に困るということもあり得ます。

 他社のアフィリエイトサイトに自社商品との比較対照を内容とする投稿がされ、それによって自社商品の信用が毀損されたとして、当該投稿をされた企業が他社のアフィリエイターの発信者情報に関し、ウェブサーバーの管理者に対して発信者情報開示請求を行い認められた事案がありました(大阪地判令和2年11月10日令2(ワ)3499号)。大阪地裁は、「虚偽の事実の流布」による信用毀損を認め、発信者情報(氏名又は名称、住所及びメールアドレス)の開示を認容しました。

 本判決からの示唆は、以下のとおりです。

・競合会社のアフィリエイト広告は「競争関係」にある者による「虚偽の事実の流布」という不正競争として、アフィリエイターの発信者情報開示が可能となる場合がある。

本判決後に出された東京地判令和4年3月4日(令和3(ワ)3824号)でも「競争関係」について同様の構成をとっており、今後の裁判においても競合会社のアフィリエイターとの「競争関係」は肯定される可能性がある。

1.アフィリエイトとは

 アフィリエイトプログラムとは、ブログその他のウェブサイトの運営者(アフィリエイター)が当該サイト(アフィリエイトサイト)に当該運営者以外の者(広告主)が供給する商品等のバナー広告を掲載し、当該サイトを閲覧したものがバナー広告をクリックし、広告主のサイトにアクセスして広告主の商品等を購入等した場合に、広告主からアフィリエイターに対して成果報酬が支払われるものです。

消費者庁「アフィリエイト広告等に関する検討会 報告書」3頁(2022年2月15日)

2.事実関係

 通販会社Xは、「アイキララ」(X商品)という名称の美容クリームを販売している会社です。氏名不詳のアフィリエイター(本件発信者)が、アフィリエイトサイトの1つのページ(本件ウェブページ)に訴外A社の販売する「メモリッチ」(A商品)と、X商品の価格、途中解約の可能性等について説明する下記1~6を掲載していました。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/839/089839_option1.pdf

 通販会社Xは、本件発信者により本件ウェブページに掲載された本件各記載が競争関係にある通販会社Xの営業上の信用を害する虚偽の事実を流布(不競法2条1項21号)するものに該当すると主張して、本件ウェブページが設置されていたウェブサーバーの管理者Yに対し、プロバイダ責任制限法4条1項(現5条1項)に基づき、発信者情報の開示を求めました。

 なお、発信者情報開示請求が認められるには、権利侵害の明白性と正当な理由が求められます。本件は2021年改正前のプロバイダ責任制限法(※2024年改正法で情報流通プラットフォーム対処法[略称「情プラ法」]に名称変更)が適用された事案ですが、2021年改正後のプロバイダ責任制限法において、発信者情報の開示を求めるときも、この要件に変更はありません。

(※発信者情報開示請求の要件等は以下の記事参照)

 また、プロバイダ責任制限法の改正の議論については、以下の事件に関する記事もあわせてご覧ください。

3.争点と判示

 本件権利侵害の明白性は、不正競争防止法上の不正競争、具体的には「競争関係」にある他人による「虚偽の事実の流布」があるかという形で争われました(不正競争防止法2条1項21号)。

(1)通販会社Xとアフィリエイター(本件発信者)が「競争関係」にあるか?

 競合商品を販売する会社同士(通販会社XとA社)が「競争関係」にあることには否定の余地がありません。他方で、商品の販売者ではないアフィリエイター(本件発信者)と競合商品を販売する会社(通販会社X)は直接的に競合する関係にはありません。では、通販会社Xとアフィリエイターとの間に「競争関係」が認められるのでしょうか。 

 大阪地裁は、以下のように「競争関係」の範囲を示しました。

『競争関係』とは、現実の市場において商品の販売を競っているといった競合関係が存する場合に限られず、相手方の商品を誹謗したり信用を毀損したりするような虚偽の事実を告知又は流布することによって、相手方を競争上不利な立場に立たせ、その結果、行為者や行為者に対して告知又は流布行為を依頼した者などが、競争上不当な利益を得るような関係が存する関係にある場合も含むと考えられる。」

 その上で、アフィリエイターと広告主との関係からすれば、アフィリエイターである本件発信者は通販会社XやX商品の評価を低下させることによって不当な利益を得る関係に立つ者であるとして、通販会社Xとアフィリエイターである本件発信者との間の「競争関係」を肯定しました。

X商品とA商品は、美容クリーム市場における競合品であるところ、本件発信者は、X商品とA商品を比較してみたという記載の下、一見、客観的に両商品についての情報を比較・提供するような体裁をとりながら、X商品と比較してA商品の利点をより多く挙げ、A商品の購入につながるリンクなどは設けない一方で、A商品を購入することができるA社公式ウェブサイトへのリンクを2箇所に目立つ形で設けており、その近くにA商品を購入する場合にはA社の公式サイトから購入することを強く推奨する文章を記載していることなどから、閲覧者に対し、A社のウェブサイトを通じてA商品を購入することを促すような仕組みを作っているということができる。
 A社が、A商品のプロモーションのために提携ウェブサイトを募集しており、その中でA商品のセールスポイントとして挙げる特徴が本件ウェブページに複数掲載されていること、提携サイトにはA商品の定期コースの契約数に応じた報酬が支払われるとされていることも考慮すると、本件ウェブページは、本件発信者が、A社と提携したり依頼を受けたりして制作したものであって、X商品の評価を低下させるような記載をすることにより、これと比較してA商品の評価を上げ、販売を促進するという目的に沿うものであると考えるのが相当である。
 そうすると、本件発信者は、A社との関係上、A商品の売上向上について利益を有する者であり、X社やX商品の評価を低下させることによって不当な利益を得る関係に立つ者であると解するのが相当である。
 したがって、X社と本件発信者の間には、21号における『競争関係』が存するということができる。」

(2)A商品について虚偽の事実の流布が認められるか?

 虚偽の事実の流布について、本件記載1については肯定されましたが、それ以外の記載については否定されました。以下では、同じくコスパについて記載しているものの、虚偽の事実の流布が認められた本件記載1と、主観を述べたにすぎないとして虚偽の事実の流布とは認められなかった本件記載4について判決の認定を概観します。

〇本件記載1について

「本件記載1は、比較表において、X社の『年間購入コース』の価格について実際よりも高価な価格(2533円)を記載し、また、単品購入の場合のA氏商品の価格が実際よりも廉価とする記載(「同じ2980円」)をしているのであって、これらはいずれも虚偽の事実というものである。」

〇本件記載4について

「本件記載4のうち、『アイキララの価格はメモリッチよりもちょっと高い』という記述は、各商品のどのコースの価格に言及するものか不明であり、『1回量が結構多いのに10gしか入っていないので、アイキララはコスパが悪いな…と思っちゃいました。』との記述は、文章全体としては、筆者の個人的な感想又は主観的な意見を述べたものにすぎないと解されるから、……虚偽の事実を流布するとまでは認められない。」

4.本判決の影響

 従来、「競争関係」は、双方の営業につき、その需要者又は取引者を共通にする可能性があれば足りると広義に解されていましたが(東京地判平成27年9月29日(平成25(ワ)30386号)経産省「逐条解説 不正競争防止法(令和元年7月1日施行版)」)、アフィリエイターと被害企業との間の「競争関係」を認定する判例は見当たりませんでした。

 本判決後に出された東京地判令和4年3月4日(令和3(ワ)3824号)は、「競争関係」について、「商品販売上の具体的な競争関係がある場合に限定されるものではなく、虚偽の事実を告知又は流布した者が、他人の競争上の地位を低下させることによって、不当な利益を得る場合をも含むと解するのが相当である」として、アフィリエイターと被害会社との間の「競争関係」を肯定しました。これは「競争関係」について本判決と同様の解釈をしたものと考えられます。

 本判決もその後の東京地裁判決も、いずれも地裁判決ではありますが、今後の裁判においても同様の構成でアフィリエイターと競合他社との間の「競争関係」は肯定される可能性があります。

5.さいごに

 アフィリエイト広告の市場規模は拡大しており、2023年度に約4232億円に達すると予測されています(株式会社矢野経済研究所「アフィリエイト市場に関する調査を実施(2022年)」)。アフィリエイト広告には、アフィリエイターが成果報酬を求めて虚偽・誇大広告等を行うインセンティブが働きやすいという特性があり、不当表示等による悪質な広告があるのが現状です。

 手軽な副業としても紹介されるアフィリエイト広告ですが、本件で主張された不競法に限らず、場合により景表法や薬機法等の規制に服するものです。これらの規制に違反した場合には、広告主に対する罰則があるほか、本件のように被害会社からアフィリエイターに対する発信者情報開示請求や損害賠償請求が認められ得ることからも、広告主、アフィリエイター双方にとってアフィリエイト広告の運用には注意が必要となります。


【参照】
消費者庁「ステルスマーケティングに関する検討会 報告書」2022年12月28日
消費者庁「アフィリエイト広告等に対する検討会 報告書」2022年2月15日 

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