競合商品の美容アフィリエイト広告の発信者情報開示(認容)
ポイント
ウェブサイトに自社商品の悪評が書かれている場合、どのような対応をすることが考えられるでしょうか?個人が運営するウェブサイトの場合、そもそも誰が運営しているのかが分からず対応に困るということもあり得ます。
他社のアフィリエイトサイトに自社商品との比較対照を内容とする投稿がされ、それによって自社商品の信用が毀損されたとして、当該投稿をされた企業が他社のアフィリエイターの発信者情報に関し、ウェブサーバーの管理者に対して発信者情報開示請求を行い認められた事案がありました(大阪地判令和2年11月10日令2(ワ)3499号)。大阪地裁は、「虚偽の事実の流布」による信用毀損を認め、発信者情報(氏名又は名称、住所及びメールアドレス)の開示を認容しました。
本判決からの示唆は、以下のとおりです。
1.アフィリエイトとは
アフィリエイトプログラムとは、ブログその他のウェブサイトの運営者(アフィリエイター)が当該サイト(アフィリエイトサイト)に当該運営者以外の者(広告主)が供給する商品等のバナー広告を掲載し、当該サイトを閲覧したものがバナー広告をクリックし、広告主のサイトにアクセスして広告主の商品等を購入等した場合に、広告主からアフィリエイターに対して成果報酬が支払われるものです。
2.事実関係
通販会社Xは、「アイキララ」(X商品)という名称の美容クリームを販売している会社です。氏名不詳のアフィリエイター(本件発信者)が、アフィリエイトサイトの1つのページ(本件ウェブページ)に訴外A社の販売する「メモリッチ」(A商品)と、X商品の価格、途中解約の可能性等について説明する下記1~6を掲載していました。
通販会社Xは、本件発信者により本件ウェブページに掲載された本件各記載が競争関係にある通販会社Xの営業上の信用を害する虚偽の事実を流布(不競法2条1項21号)するものに該当すると主張して、本件ウェブページが設置されていたウェブサーバーの管理者Yに対し、プロバイダ責任制限法4条1項(現5条1項)に基づき、発信者情報の開示を求めました。
なお、発信者情報開示請求が認められるには、権利侵害の明白性と正当な理由が求められます。本件は2021年改正前のプロバイダ責任制限法(※2024年改正法で情報流通プラットフォーム対処法[略称「情プラ法」]に名称変更)が適用された事案ですが、2021年改正後のプロバイダ責任制限法において、発信者情報の開示を求めるときも、この要件に変更はありません。
(※発信者情報開示請求の要件等は以下の記事参照)
また、プロバイダ責任制限法の改正の議論については、以下の事件に関する記事もあわせてご覧ください。
3.争点と判示
本件権利侵害の明白性は、不正競争防止法上の不正競争、具体的には「競争関係」にある他人による「虚偽の事実の流布」があるかという形で争われました(不正競争防止法2条1項21号)。
(1)通販会社Xとアフィリエイター(本件発信者)が「競争関係」にあるか?
競合商品を販売する会社同士(通販会社XとA社)が「競争関係」にあることには否定の余地がありません。他方で、商品の販売者ではないアフィリエイター(本件発信者)と競合商品を販売する会社(通販会社X)は直接的に競合する関係にはありません。では、通販会社Xとアフィリエイターとの間に「競争関係」が認められるのでしょうか。
大阪地裁は、以下のように「競争関係」の範囲を示しました。
その上で、アフィリエイターと広告主との関係からすれば、アフィリエイターである本件発信者は通販会社XやX商品の評価を低下させることによって不当な利益を得る関係に立つ者であるとして、通販会社Xとアフィリエイターである本件発信者との間の「競争関係」を肯定しました。
(2)A商品について虚偽の事実の流布が認められるか?
虚偽の事実の流布について、本件記載1については肯定されましたが、それ以外の記載については否定されました。以下では、同じくコスパについて記載しているものの、虚偽の事実の流布が認められた本件記載1と、主観を述べたにすぎないとして虚偽の事実の流布とは認められなかった本件記載4について判決の認定を概観します。
〇本件記載1について
〇本件記載4について
4.本判決の影響
従来、「競争関係」は、双方の営業につき、その需要者又は取引者を共通にする可能性があれば足りると広義に解されていましたが(東京地判平成27年9月29日(平成25(ワ)30386号)、経産省「逐条解説 不正競争防止法(令和元年7月1日施行版)」)、アフィリエイターと被害企業との間の「競争関係」を認定する判例は見当たりませんでした。
本判決後に出された東京地判令和4年3月4日(令和3(ワ)3824号)は、「競争関係」について、「商品販売上の具体的な競争関係がある場合に限定されるものではなく、虚偽の事実を告知又は流布した者が、他人の競争上の地位を低下させることによって、不当な利益を得る場合をも含むと解するのが相当である」として、アフィリエイターと被害会社との間の「競争関係」を肯定しました。これは「競争関係」について本判決と同様の解釈をしたものと考えられます。
本判決もその後の東京地裁判決も、いずれも地裁判決ではありますが、今後の裁判においても同様の構成でアフィリエイターと競合他社との間の「競争関係」は肯定される可能性があります。
5.さいごに
アフィリエイト広告の市場規模は拡大しており、2023年度に約4232億円に達すると予測されています(株式会社矢野経済研究所「アフィリエイト市場に関する調査を実施(2022年)」)。アフィリエイト広告には、アフィリエイターが成果報酬を求めて虚偽・誇大広告等を行うインセンティブが働きやすいという特性があり、不当表示等による悪質な広告があるのが現状です。
手軽な副業としても紹介されるアフィリエイト広告ですが、本件で主張された不競法に限らず、場合により景表法や薬機法等の規制に服するものです。これらの規制に違反した場合には、広告主に対する罰則があるほか、本件のように被害会社からアフィリエイターに対する発信者情報開示請求や損害賠償請求が認められ得ることからも、広告主、アフィリエイター双方にとってアフィリエイト広告の運用には注意が必要となります。
【参照】
消費者庁「ステルスマーケティングに関する検討会 報告書」2022年12月28日
消費者庁「アフィリエイト広告等に対する検討会 報告書」2022年2月15日
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