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Googleに対して、「なりすまし」による口コミの削除と損害賠償を請求した事例(削除認容)



ポイント

 今回は、Googleの口コミ上のなりすまし投稿について、コンテンツプロバイダであるGoogleに対して削除請求(及び損害賠償)が行われた事案(大阪地判令和2年9月18日(令和元年(ワ)第5554号))をご紹介します。本件は、何者かが他人の名前でネガティブな投稿(なりすまし投稿)をしたのに関し、なりすまされた原告が被告(Google)に対してまず発信者情報開示を求めて開示命令まで得たものの、被告側から発信者情報が確認できないとして開示されなかったため、別途、投稿記事の削除及び損害賠償を請求した事案です。

 裁判所は、なりすまし投稿を認定した上で、人格権の一内容として、他人に氏名を冒用されない権利を認め、人格権に基づく妨害排除請求として原告の削除請求を認めました。

 一方、損害賠償請求については、裁判所は、投稿記事により原告の氏名が冒用されていることを被告が認識することができたとは言えないとし、被告の削除義務を否定し、請求を棄却しました。

 本記事のポイントは、以下の3点です。

・第三者が投稿した記事等の削除をオンラインフォーム等で、コンテンツプロバイダに求めても、対応がされない、不十分、分かりにくい場合がある
・なりすまし事案においては、氏名冒用による人格権侵害を理由として、サイト管理者に対する削除請求が認められる場合がある
・発信者情報開示請求の過程で権利侵害が認められても、ただちにサイト管理者の削除義務、懈怠の場合の損賠賠償責任が認められるわけではない

 なお、「なりすまし」に対する発信者情報開示の事例は以下をご参照ください。

1.事実関係

 原告は、A整骨院に通院中であった個人(甲野花子※仮名)です。

 2018年12月13日頃、被告(Google)が設置、管理及び運営する「Googleの口コミ」のA整骨院についての感想・評価欄に、A整骨院に対するネガティブな内容の投稿(本件投稿記事)がなされました。投稿ユーザー名は、原告の氏名を逆に表記した「花子甲野」でした。

 原告は、被告に対し、まず本件投稿記事の投稿者についての発信者情報開示の仮処分命令申立てを行い、開示を命ずる仮処分決定を得ました。しかし、被告は、英文で「開示を命じられた発信者情報を確認できない」旨の連絡をし、原告がその趣旨を問い合わせても、「英文どおりの意味であり、それ以上の説明をする予定はない」と回答しました。その結果、原告は、発信者情報を得ることができませんでした

 そこで、原告は、本件投稿記事の削除等を求め、被告を相手方として訴訟を提起しました。

2.具体的な投稿内容

 本件投稿記事の内容は、以下のようなものでした。

【口コミ対象】A整骨院
【投稿ユーザー名】花子甲野
【投稿内容】
院長先生がえれそうですごい不愉快です。
嫌いです。
治療も痛いだけです。
他の場所に行った方がいいと思います

3.Googleの利用規約・ポリシー

 Googleと利用者の関係を規律するルールには、基本的な事項を定める利用規約と、Googleの各サービスや、場面ごとの詳細について定める複数のポリシーが存在します。

 本判決では特に(1)Googleの削除権限と、(2)なりすまし行為による投稿の禁止が認定されています。

■Google利用規約
Googleは、Googleのサービスを利用する者のコンテンツが、
①利用規約、サービス固有の追加規約又はポリシーに違反している場合、
②適用される法律に違反している場合、
③被告のユーザー、第三者又は被告に損害を与える可能性があると合理的に確信できる場合には、適用される法律に従って、当該コンテンツの一部又は全部を削除する権限を有する

■投稿コンテンツに関するポリシー
他の個人を代表する権限がない者が、それらの個人に関連づけて投稿コンテンツを表示するといったなりすまし行為は禁止及び制限されている

(参考:2023年12月時点)
Google 利用規約 – ポリシーと規約 
マップのユーザー作成コンテンツに関するポリシー

 Googleは、2023年12月現在、「なりすまし」とは、「他者を欺いたり不正な利益を得たりする目的で、別人になりすますこと」と定義しており、「なりすまし」行為は、口コミ投稿時のポリシーだけでなく、Google アカウントについてのユーザー情報に関するポリシーに違反する可能性があります。

4.論点と判示

 原告は、被告に対して、人格権に基づく本件投稿記事の削除及び不法行為に基づく損害賠償を求めました。

(1)人格権に基づく本件投稿記事の削除請求

 裁判所は、人はその氏名を他人に冒用されない権利を有し、かかる権利は不法行為上強固なものとして保護される(最判昭和63年2月16日民集第42巻2号27頁)として、なりすましの場合、人格権侵害に基づき投稿の削除まで求めることができるとしました。

 そして、投稿者の氏名(花子甲野)と原告の氏名(甲野花子)が表記を逆にしただけのもので原告の氏名を用いているといえること、原告が自ら投稿していれば自由に編集できるはずなのにしていないこと、本件投稿記事の後すみやかに法的措置を講じたこと、原告は本件投稿記事の前後で変わらずA接骨院に通院していることなどから、原告以外の者により本件投稿記事が書き込まれたと認定しました。その上で、原告がそれを許しているという事情がないことから、氏名の無断冒用による人格権侵害を認定しました。

 被告は、公衆の知る権利に配慮すべきであって、被告は本件サイトにおいて投稿者ではなく媒介者に過ぎないこと、投稿者の反論の機会が確保されない可能性があることを理由に、本件投稿記事について削除請求が認められるのは、以下の3要件を満たした場合に限られるべきであると主張しました。

【被告が主張した判断枠組み】
本件投稿記事について、削除請求が認められるのは、
・原告以外の者が原告になりすまして投稿したといえ、
・かつ、一般読者の通常の注意と読み方を基準とすると、原告によって投稿されたものと誤認されるということが明らかであり、
・他人の氏名を使用した目的、氏名使用行為の態様、氏名権を有するものが被る損害及び削除を認めることにより投稿者等が被る不利益等を全体的に考察してその氏名の使用行為が社会生活上受忍限度を超えることが明らかである場合に限定される

 しかし、裁判所は、他人に氏名を冒用されない権利に優先すべき利益が投稿者や閲覧者にあるとは想定し難く、本件サイトやその管理者である被告の立場の特殊性等を考慮しても、被告の主張する判断枠組みを用いるのは相当ではないとして、被告の主張を否定しました。

 なお、被告の主張する判断枠組みを用いても、なりすましの投稿であること、原告によって投稿されたものと誤認されること、原告の氏名が使用された行為が社会生活上受忍限度を超えることは、それぞれ明らかであるとも付言しています。

(2)本件投稿記事を削除しなかったことについての損害賠償請求

 原告は、本件投稿記事の削除を怠ったことによる不法行為に基づく損害賠償請求も行いました。

 ここでの主な争点は、別件の発信者情報開示命令申立事件の答弁書提出時点で、被告に削除義務とその過失が認められるかといった点でした。発信者情報開示請求において、権利侵害が要件となっているためです。

 しかし、裁判所は、「本件投稿記事が原告のなりすましによるものであることを被告において最終的に判断し得る情報」が被告に提供されてないとして、被告が認識を欠くことを理由に、条理上の削除義務を認めず、不法行為上の過失を否定しました。

 具体的には、被告が、別件事件の申立てにより、本件投稿記事の存在を認識し、原告が氏名を冒用されない権利を侵害されている可能性を認識し得たとしても、(i)本件投稿記事がなりすましによるものであることを最終的に判断し得る情報が提供されたとまではいえず、(ii)本件投稿記事が原告の氏名を冒用されない権利を侵害していることまで被告が認識することができたともいえないとしました。

 コンテンツプロバイダ側に、積極的になりすましを認定して削除する義務が生じるものではないとの一線を引いた事例ともいえます。

5.さいごに

 コンテンツプロバイダは、通常、利用規約により、利用者が投稿した記事等の削除に加えて、利用者のアカウントの削除・停止等の権限を定めているほか、削除等の対応窓口(オンラインフォーム、メールアドレス)を設けている場合が多いです。

 第三者が投稿した記事やコメントが何らかの権利を侵害しており、コンテンツプロバイダに削除等の対応を求めたい場合には、まず、利用規約に反しているかを確認し、用意されたオンラインフォーム等を用いて、コンテンツプロバイダに対応を要求していくのが簡易です。もっとも、権利侵害の種類や対応の種類(記事/アカウントの削除等)ごとに対応窓口が異なる場合もありますし、コンテンツプロバイダが海外企業の場合には、日本語での対応が行われない場合もあることには注意が必要です。

 コンテンツプロバイダの削除等の対応がされないか、不十分である場合には、裁判手続によって、削除を求めることも考えられます。なりすましの場合、人格権侵害に基づく妨害排除請求として記事の削除等を求めることも検討されるべきといえます。

 ただし、一般に記事等の削除が認められるかどうかは、コンテンツプロバイダ、投稿者、他の利用者等の諸利益と比較衡量して決まる傾向にあり、なりすましの場合の議論の枠組みや結論も事案により異なり得るのが実情です。

 したがって、実際に権利侵害の事象に直面した場合には、一般的には、対応方法も含めて弁護士に専門的・総合的な助言を得るのが望ましいと考えられます。


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