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日本の火星探査の歴史とこれから

以下の記事でアメリカの火星探査の歴史について解説してきました。では、日本はこれまでどのような火星探査を行ってきたのでしょうか。

今回の記事では、日本の火星探査の歴史と、今後行われる予定の火星探査計画について解説していきます。

Planet-B(のぞみ)

日本の火星探査はアメリカとロシア(ソ連)にかなり遅れること1998年に初めて行われました。この探査機の名前は「のぞみ」と名付けられました。
この前にも、Planet-A(すいせい)というハレー彗星探査機を打ち上げてはいましたが、本格的に日本が太陽系惑星探査に参加することを表明する意味合いもあり、望みを込めてこの名前に決まりました。
「のぞみ」の科学ミッションは、火星の高層大気の観測でした。これまでアメリカやロシアは火星表面を中心に探査していたのになぜ日本は上層大気に目をつけたのでしょうか?

アメリカの探査機Mars Global Surveyor(MGS)の観測により、火星には地球に存在するような強い固有磁場が存在しないことがわかっていました。強い磁場がないと、太陽風や宇宙からの放射線がそのまま地表面に通過してきてしまいます。これにより、火星の大気は太陽風などにより一部がはぎ取られ宇宙空間に逃げてしまったため大気が薄いと考えられます。したがって、この大気の散逸現象を詳しく調べることで、過去の火星環境の理解となぜ現在の火星が寒くて乾燥した惑星になってしまったのかを知る手がかりが得られると期待されていました。
「のぞみ」はその他にも、火星の2つの衛星(フォボスとダイモス)、火星の砂嵐や雲、氷の極冠などを観測を行う予定でした。

しかし、残念なことに、「のぞみ」は火星への軌道投入に失敗してしまい目標としていた観測はできませんでした。(悲しい...)

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以下のJAXAのページを見てもらうとわかりますが、「のぞみ」には多種多様な観測機器が搭載されており、もし正常に観測できていれば現在の研究もかなり進んでいたと思います(たらればは良くありませんが...)
https://www.isas.jaxa.jp/missions/spacecraft/past/nozomi.html

MMX(火星衛星サンプルリターン)

日本が行う直近の火星探査は「MMX」です。このミッションは、火星そのものではなく、火星の衛星フォボスからのサンプルリターンを行います。この探査機は2024年に打ち上げ予定、帰還は2029年を予定しています。

MMXの科学目標は以下の2つが挙げられます。

・火星衛星の起源を明らかにし、太陽系の惑星形成の謎を解き明かす
・火星圏(火星、フォボス、ダイモス)の進化の過程を明らかにする

火星衛星の起源には、以下の2つの説が考えられています。

①火星形成後、小惑星が捕獲されたもの
②火星に大きな天体が衝突(ジャイアントインパクト)した際に飛び散った破片が集まってできたもの

MMXのサンプルリターンを行うことで、この議論には完全に決着がつきます。というのも、岩石には形成年代がいつぐらいか、どのような進化を辿ってきたか、どのような元素でできているかがわかります。もし①の説であれば太陽系初期に生成された古い岩石でしょうし、②であれば衝突時の熱変成作用が起こった証拠や火星成分が多く含まれているでしょう。(実際にはそんなに単純ではないですが...)

さらに火星衛星の起源がわかると、地球の形成過程にも制約を与えられる可能性があります。火星と地球の位置は近いので、太陽系形成時期に小惑星や隕石が到来する頻度は同じくらいであったと思われます。火星の衛星の起源が小惑星であり、その内部に水を多く含んでいることがわかると、地球にもそのような"海の素"が大量に供給された証拠が得られるかもしれません。

その他にも、MMXは火星衛星の地表面や内部構造、火星の地表や大気の探査も行います。これにより、火星衛星および火星表層の進化過程を理解し、 地球型惑星表層に液体の水が保持されるための条件を解明することで、今後の生命探査へ発展していくための知見を得ることも狙っています。

MACO(周回・探査技術実証機による火星宇宙天気・気候・水環境探査)

最後は「MACO」というまだプロジェクト化されていない探査計画です。この計画は火星探査タスクフォース宇宙理学委員会でも議題に上がっており、2030年代の火星の総合的探査に向けての足がかりとして検討されています。

火星探査タスクフォースでは、日本の今後の探査スケジュールとして以下のような画像を示しています。
この中で、MMXはすでに2024年のに打ち上げられる予定です。そしてMMXに続く探査に挙げられている「小型周回、探査技術実証」と書かれている部分に「MACO」が入ってくると思われます。この探査機は、上でのべた「のぞみ」で観測できなかった上層大気の観測、今後の火星着陸探査を見据えた探査機の実証、地表の水循環や環境のリモセンデータ取得などを目的にしているようです。

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(credit: JAXA)

ここで紹介したものは火星探査タスクフォースのごく一部であり、この資料の中には非常に重要な情報が散りばめられているので、熟読したいところですね。気が向いたらnoteに解説記事書きたいと思います。


独り言
2013年くらいまで盛り上がっていたMELOS計画ってどうなったんだろう?
今度関係者に聞いてみたいな~

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