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ファンが抱えるグリーフ:有名人の死に直面した私たちはどうすればいいのか

2022/5/13 この記事を発展させて制作したウェブサイトを公開しています。こちらもご覧ください。

有名人とのパラソーシャルな関係性

私たちはテレビ、動画や映画、雑誌などのメディアを通して、さまざまな有名人を知っています。―――俳優、役者、芸人、歌手、ミュージシャン、アーティスト、アイドル、タレント、Youtuber、モデル、声優、ラジオパーソナリティ、作家、漫画家、アスリート、ダンサーなど、挙げればきりがありません。

このような有名人に対して、私たちは個人的に親近感や友情等、さまざまな気持ちを持っています。この一方向の心理的なつながりをパラソーシャルな関係性(parasocial relationship: Horton & Wohl, 1956)といい、アイデンティティの形成など、私たちに影響を及ぼしています。

特定の有名人が登場しているメディアを追ったり、作品を楽しんだり、応援したりグッズを集めたり、ライブや試合、イベントに参加したりして、私たちは有名人と心理的なつながりを持ちます。たとえ直接会ったり声を聞いたりしたことがなくても、有名人は私たちの経験や思い出、生活の一部や生きがいとなっているかもしれません。

死別時の心理的反応

最近、COVID-19による急死などによって、私たちは多くの有名人の死に直面してきました。
メディアを通して心理的つながりを持っていた有名人が亡くなった時、ショックを受け、悲しんだり落ち込んだりすることは自然な反応です。
特に強いつながりを感じていた有名人が亡くなった時は、身近な人を亡くした時と同様の心理的反応が起こることがあります。大切な人と死別したときの悲しみやその過程をグリーフ(悲嘆)と言います。

「現実感がない」「何も感じない」(ショック・無感覚・麻痺)
「受け入れられない」(否認)
「生きていく意味が見いだせない」(絶望感)
「何をする力も出ない」(無力感)
「失ったことへの苦しみ」「心の強い痛み」(苦悩や苦痛)
「ひとりぼっちになってしまったという不安」(不安)
「死別がまた起こったらどうしようという恐れ」(恐れ)
「もう会えない」「家族や友人がいても感じる孤独感」(悲しみ、寂しさ)
「亡くなった人が愛おしい」(思慕)
「また会いたいと強く願う気持ち」(切望)
「死が起こったこと、死の状況に関わった人、自分の気持ちを理解してくれない人への怒り」(怒り、いらだち)
「自分のせいで…」「もっと守れたのではないか」(後悔や自責感)
「自分は役に立たない」(恥)
―――――――――――死別後に起こりやすい感情(瀬藤,2016)より抜粋

上記のような反応に加えて、亡くなった有名人と重なる故人を思い出すかもしれません。自分と関係する誰かが亡くなる経験自体が初めてで、戸惑うかもしれません。
人の死に直面したときに感じる気持ちがどのようなものであっても、それを否定する必要はありません。グリーフは一般的には時間の経過とともに和らいでいきます。

有名人の死後のメディア

私たちは有名人とメディアを介してつながりを持ってきました。しかし、有名人が亡くなった時は、マスメディア・ソーシャルメディアで知らされるさまざまな情報によって、余計に気持ちが揺さぶられることがあるかもしれません。

・死因から関係者の反応までセンセーショナルに報道されることがあります
・亡くなった有名人に関する情報が一時的に増加します
・不確定・憶測の情報が広まることがあります
・亡くなった有名人に対するさまざまな世間の反応にさらされます

そのため、動揺や悲しみが強すぎるときは、ニュースやソーシャルメディアを見ることから離れてみてください。

ファンのおこなうグリーフワーク

大切な人との死別後におこなう心理的な作業を、グリーフワーク喪の作業といいます。泣いたり、故人の死を悼んだりする過程があることで、新たな生活に目を向けたり、故人のいない現実の生活に適応したりすることもできるようになっていきます。

下記に、有名人の死に直面したときのグリーフワークの例を挙げてみました。

①その有名人を同じように知る人と気持ちを共有しあう
故人との心理的なつながりを同じように持っている友人やファン友達がいたら、気持ちを共有してみましょう。同じようなファンでなくても、あなたの有名人に対する気持ちを理解してくれる人に話をしてみましょう。

②その有名人への思いを手紙に書く
気持ちを文字に書き出すことは、心を整理することに役立ちます。(ただし、悲しみや辛さを強く感じすぎる場合は控えた方がよいでしょう)

③その有名人が大事にしていたものを大事にする
故人の好きな食べ物を食べたり音楽を聴いたり映画を見たり、故人が熱心にしていた慈善団体に寄付したりしてみましょう。

④その有名人とのポジティブな経験を思い出す
故人と結びついているポジティブな経験、つらいときを支えてくれた言葉、感銘を受けた作品、わくわくしたイベント、笑った映像、温かい記憶をたどってみましょう。

⑤公式の喪の儀式に参列する
ファンが参列できる告別式やお別れ会が開かれる場合、お別れの時間を持ってみましょう。
(参考:有名人の葬儀・お別れの会に参列したい。ファンのマナーとは?

⑥規則正しい生活を続ける
グリーフによって、これまでの生活と同じような生活を送ることが一時的に難しくなるかもしれません。今まで通りにごはんを食べたり、しっかり寝ることを心がけましょう。

⑦悲しみや苦痛が強く長く続く場合は専門家に相談する
時間(数か月)が経っても強いグリーフが続いて日常生活に支障が出るような場合は、複雑性悲嘆と呼ばれる状態かもしれません。そのようなときは、医療機関や相談機関で医師やカウンセラー等の専門家に相談しましょう。

⑧その有名人との新たなつながりを持つ
故人が遺したさまざまな作品やあなたの経験はなくなっていません。作品や思い出を通して、あなたが好きだった有名人との関係性をまた新たに結んでいきましょう。

故人が自死で亡くなった時

故人が自死で亡くなった時は、その報道が影響して、生きることがつらいと感じている若者や、故人と似た境遇にある人の自死が続けて生じることがあること(ウェルテル効果)が、専門家の間ではよく知られています。そのため、もしあなたが故人の自死に強く揺さぶられ、自分自身も同じように死にたいと思っているときは、専門家に気持ちを話してもらえたらと思います。
また、周囲に思い当たる知人がいるときは、声をかけ、話を聴き、必要に応じて専門家への相談を勧めてみてください。

引用

Horton D, & Wohl RR. (1956). Mass communication and para-social interaction. Psychiatry: Journal for the Study of Interpersonal Processes, 19, 215–229.
瀬藤乃理子(2016)第3章 死別 川島大輔・近藤恵(編)はじめての死生心理学 現代社会において、死とともに生きる 新曜社 pp47-64.

参考サイト

Triggered by a Celebrity’s Death? Here are 7 Ways to Care for Yourself and Others
THERE’S A PSYCHOLOGICAL REASON CELEBRITY DEATHS HIT US SO HARD
Why We Take Celebs Deaths So Hard-What is it that makes us so darn affected by celebrities' deaths, whether they're untimely or not?
Grieving the Death of a Celebrity
Parasocial Relationships: The Nature of Celebrity Fascinations

追記

2020/7/27時点で370 viewありがとうございます。必要な人に情報が届きますように、このページは自由に拡散・共有していただいて構いません。

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