フルタイムで働きながら作家活動をするということの長所。
2017年1月から、2022年2月まで、僕は小さなファッションブランドでフルタイムで働きながら作家活動をしていた。他のアーティストにはなんでそんなに働くんだと言われたりしていたが、僕は僕なりに考えをもってその状態でいた。
僕はドイツの大学で卒業までの期間がはっきりと決められていない中で、同期のなかでは一番早く卒業した。なので、2015年に卒業して今に至るまでの時間のなかでいろいろな状態を経験した。今はまた違う状態になってはいる。
今、僕らのアーティストの友人たちが、大学を卒業しフルタイムで働こうか、どうしようかという悩みをもっているときに僕のところに相談に来ることがある。僕自身、自分の身の振り方でまだ悩むことがあるのだが、できるだけ正直に会社で働きながら制作するということについて話すことにしている。
会社の業務内容や、価値観からアーティストとして学んだ、もしくは学ぶべきものは反面教師的なもの以外は今思い返しても一切なかったと思ってしまうが、作家として重要な時期にフルタイムでも働いていたことはとても良かったことだと人には良く話す。
僕は、フルタイムで会社で働く前にドイツのアカデミーを卒業後、フリーランスで仕事をしていた時期が約1年半ほどあった。その時期はあまりにもお金がなくて、また卒業したてのアーティストは試用期間のように使われるので(もしかしたら他の人はそうではなかったのかもしれないが)年に10以上の展覧会やパフォーマンスをこなす生活をしていた。かつてあるラジオで尊敬するお笑い芸人が、「あるとき考えが変わってなんでもやってみるようにしたら、すべてのことが面白く感じた。」と言っていたのが印象に強く残っていたので、少し違和感を感じていたとしても、来る仕事はすべて受けるということにした。お金のために、やりたくないこともやるという決断をしたことも多かった。
ある展覧会に参加したしたとき、そのオープニングで鳥肌と蕁麻疹がとまらなくなった。あるコマーシャルギャラリーでの展示で、ある程度有名な作家も展示している一つのテーマに絞った展覧会だった。僕はその時たまたまそのテーマに則した作品を作っていたのでお呼びがかかって参加したのだが、僕にとってコンセプト的に重要だからそのメディアを使っていたものの一部だけ取り上げて展示をする展覧会に耐えられなく、とてつもない不愉快さと居心地の悪さを感じた。これは、人によってはわがままだといわれるかもしれないが、それから僕は同じような展覧会の参加の仕方を二度としないと誓って、今もその思いは変わらない。
フルタイムで働いてきながら作家をしていてよかったと思うことは、少なくともお金に飛びつく形で展示やパフォーマンスをしなくてもよかったということだ。そもそも時間は限られているし、やりたくないことはやらないと大胆に取捨選択することができた。その期間限られた時間の中で、自分にとって学びの多いもの、またはモチベーションを持てるものだけを意識的に選んで活動をした。最終的に痛い目をみることも勿論あるが、純粋に自分のモチベーションを自分に尋ねながら制作をするという期間を5年間持ったことは今でも財産であったと思う。
勿論、仕事でのストレスをからの切り替えがなかなか難しかったり、僕の場合は通勤に片道約1時間ほどかかったりと、いろいろ大変な面はある。しかし、その条件の中で工夫をするということも学んだことなのかもしれない。例えば、メールの返信は電車の中でのみするだったり、早朝に制作をしてから仕事にいくことを習慣にしていたり。
最近友達に相談をされたときも、フルタイムで働きながらというのも、経験をしてもよいのではないかというように話をした。ただ、今の僕は、もうしばらくだけフルタイムで働きながらというライフスタイルには、もどらない。今かたちになろうとしているものに形を与えるために。