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「主人公に入り込めないけどミステリーとして純粋に楽しむ~『危険なビーナス』~」

『危険なビーナス』 東野 圭吾 著 (講談社)
 
主人公・伯朗がまだ子供のころ、画家である父が死んだ後、母が再婚した相手は資産家だった。
その家はどこか落ち着かない。
叔父・叔母・いとことも全くなじめそうにない。
そしてその後生まれた弟は成長するにつれて天才的な能力を持つようになる。
 
また、母は伯朗が大学生の時、不審な死に方で亡くなってしまった。
様々なこれらの要因が重なり資産家である家にも寄り付かず、残った義父や弟とも連絡を取ることをしなくなった。
 
そんな大人になった伯朗のところに、その弟が失踪したとの連絡が、弟の妻だと名乗る女性から入る。
その後すでに疎遠になっていた母の再婚相手の家へ、弟の妻とともに久しぶりに訪れることになった伯朗。
 
そこでは、義父は病床におり残った親族がいずれ残されるはずの遺産分配について話し合うという。
 
弟の妻と名乗る女性・楓は、もしかしたら家族の誰かが弟の失踪に関わっているのではないかと疑っている。
犯人探しに共に乗り出す伯朗は、楓の魅力にはまり、次第に惹かれ始めていく。
 
そして実の父が描いていた生前最後の絵が、幼い日の脳裏に印象強く残っていたのだが、義父の家で見つかった絵の印象が妙に重なり合うのが引っかかる。
 
それは母の死とも関わる重要な鍵だった。
伯朗は少しずつ少年の頃の記憶とともに、母の死・弟の失踪の謎に近づいていく・・・。
 
 
いろんなレビューでこの作品が駄作との酷評を受けていたが、そんなにハードルを高くせず単なるエンターテインメントの作品として読めば、それなりに楽しめた。
が、誰かも言っているように、主人公・伯朗にあまり魅力を感じないのが痛い。
やはりせめて主人公には共感と言うか、気持ちが入り込める余地があってほしかった。
ガリレオシリーズなどで、頭脳明晰なトリックでファンを魅了してきた東野圭吾の作品が好きという人にとって、物足りない作品だと評価が低い。
私はあまり東野圭吾作品をそんなに読んでいないので、よくわからなかったけど…。
 
ただ理系の話が得意な著者は今回もその知識を発揮しており、“フラクタル図形”という物語の鍵になるものを使用している。
数学の分野では有名らしい。
(野菜のロマネスコ・ブロッコリーもフラクタルだそうで、自然界っておもしろい)
 
とりあえずさまざまなエピソードで、読者は「この人が犯人か?」とか「もしかしたらこの人物は、実はこういう人間だったりして…」などと推理したりするのだろうけど、そこがミステリーの醍醐味だろうからあまり神経質にならなくてもいいとは思う。
 


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