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「自分の進む道は自分で決める!~『ぼくがバイオリンを弾く理由(わけ) 』~」【児童書①】

『ぼくがバイオリンを弾く理由(わけ) 』 西村 すぐり 著  スカイエマ 絵  (ポプラ社)
                          2016.7.20読了

今回ご紹介する本は、児童文学者の故那須正幹氏が審査委員長を務めていらした、ポプラ社の「第1回ポプラズッコケ文学賞」入選作だそうです。
YA世代でも十分楽しめますが、小学生中・高学年にぜひおすすめしたい本ですので、あえて【YA】の括りとしませんでした。

主人公のカイトは11歳で、小さな頃からバイオリンを習っています。
故郷広島を離れ、単身、神戸でバイオリンの先生の家に泊まりこみでバイオリンを勉強中です。
そして今、中学生までが出場できるコンクールの出番待ちの真っ最中。
 
待つ間、他の参加者の様子が嫌でも目に耳に入ってきます。
そこで中学生の森堂の華やかな演奏を見て、とても真似できないと思ってしまいました。
しかしその次にステージに立った同い年のモネが、同じように派手なパフォーマンスさながらの演奏をした時は、逆に反発しか感じませんでした。
 
「あれは森堂しかできない弾き方だのに、モネのそれは単なるものまねだ!」
 
自分はあんな弾き方はできない…。
しかし自分は自分の演奏をするだけだと、頑なに真面目に、風に吹かれても動じない大木のようにバイオリンを弾いたのでした。
 
終わると客席の先生と目が合い、「よし!」と言ってくれたみたいです。
 
それでも、結果は…
自分は落ちて、森堂とモネは決勝に進んだのでした。
あんな派手な弾き方をしないとコンクールでは勝てないのなら、自分はもうバイオリンを弾くことはできない、やめるしかないと思ったカイト。
 
折しもコンクールを見に来るはずだった母が、途中で具合が悪くなり来れなくなったとの知らせを受けた時、カイトは思わず先生に断りもなしに広島まで帰る新幹線に飛び乗ってしまいました。
 
その新幹線の中で出会った女性。
自分が持つバイオリンケースを見て、にっこりと笑いかけてきます。
それはなんとも運命的な出会いだったのでした…。
 
 
その後カイトはその女性から、広島の平和公園で行われる、8月6日のコンサートで演奏される「祈りの花」という曲の楽譜を見せられます。
 
その曲はある男性が、自分のおばあさんから原爆が落とされた日に多くの友達を失いその後一人生き続け罪悪感を持ち続けたという話を聞き、その鎮魂のために作曲した渾身の曲でした。
広島の復興と希望の曲ということだそうです。
そしてその男性は、新幹線で出会った女性の先輩だったのです。
 
それに実家の隣に住むタヅばあさんも、息子を原爆投下の日に亡くしていたということを今回聞きました。
数日経って遺体を探しに行ってももう遅く、おばあさんは息子を見つけられないまま、心をその日に残したままです。
タヅおばあさんは、やはりこの「祈りの花」が大好きです。
 
カイトが弾くこの曲は少なからずおばあさんを幸せな気分にさせてあげられます。
そう感じたカイトはある決断をします。
 
 
バイオリンをやめなさいとは、だれも言ってはいません。ただ自分でやめようと決めただけ。
でも周りのみんなは、カイトが自分で決断することを待っていてくれています。
 
「何のために自分はバイオリンを弾くのか、答えを見つけられるのは自分だけだ!」
 
 
誰にもあるスランプ。それを乗り越える力が誰にもあるんだということを教えてくれている本です。
夏休み、ちょっぴりたくましくなった11歳の男の子の物語です。


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