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「帰るに帰れない敵国人抑留という事実に苦しむ女の子~『ハンナの記憶 I may forgive you』~」【YA㉔】

『ハンナの記憶 I may forgive you』長江 優子 著 (講談社)
                           2012.09.20読了

この本は2012年7月に出版されたものです。
(読んだ当時の時点で書いていた感想をそのまま書いています)

時は今をさかのぼる、1年半前のことです。
東日本大震災の前後、中学2年生の波菜子が知ってしまったおばあちゃんの知られざる過去。
 
それは、おばあちゃんの女学生時代の親友でイギリス人の血を引くクォーター、ハンナ・フォックス(日本名:田中ハナ)との交換日記の中で繰り広げられる友情のおはなしでした。(彼女は日本で生を受け、日本人のように暮らしていました)
 
戦時下の日本で、敵国の血を引く人間と秘密のやり取りをするなど犯罪であり、本人同士はもちろん、それぞれの家族やその行為を手助けした人間の身にも危険がせまるという恐ろしい状況の中、シズちゃん(おばあちゃん)とハンナの友情の絆は続いていくかと思われたのですが…。
 
 
 
震災の前に届いたイギリスのハンナからのクリスマスカードには、「I may forgive you」(あなたを許してあげてもいい」という気になる言葉が1行だけ書かれていました。
 
いったいおばあちゃんとハンナの間に何が起こってしまったのでしょうか。
 
認知症が発症しはじめたおばあちゃんを、施設に入ってもらうまで一時我が家に受け入れた波菜子たち家族。
そして震災のあった日、おばあちゃんの荷物が揺れで崩れてしまっていた中で見つけた1枚のセピア色の写真と「シズ・アンド・ハンナ」と書かれたノート。
 
にっこりと顔を寄せ合う二人の少女と、交換日記の様相を呈したノートについつい興味をひかれた波菜子はその中身を読んでしまうのですが…。
 
 
さまざまな諸事情と生まれた国への思いで、敵国の日本を離れることができなかった戦時下の外国人であるハンナ。
帰る故郷があるのに、帰ることができない───────
まさに、今の東北の避難生活者、福島の原発周辺から非難を余儀なくされている人々と似た状況ではなかったでしょうか。
 
きっかけは自然災害とはいえ、人の手が作り出した戦争や核開発によって、故郷を失う人がいる現実があります。
 
この物語で重要なのは“記憶”です。
この悲劇を、そして今起こっていることを未来へいかにして遺すかが問われています。
 
そして悲劇を悲劇のままで終わらせないよう、新たな幸せのためにどうしたらいいかを考えさせられる物語です。
中学生はもちろん、それ以上の若者、また親世代にもぜひ読んでほしい1冊です。


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