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「これは本当に架空のお話なの!?現実味のある展開に慄く~『鹿の王』~」【YA㊽】

第1章 『鹿の王(上) 生き残った者』『鹿の王(下) 還って行く者』上橋菜穂子 著 (角川書店)
                          2015.6.22読了


超大国の東乎瑠(ツオル)の侵略から故郷を守るために、死兵となって戦っていたヴァンは捕らわれの身となり岩塩鉱に閉じ込められていましたが、ある夜野犬たちが岩塩鉱を襲います。
ヴァンをはじめ、そこにいる皆がその不思議な犬たちに嚙まれてしまいました。
気づくとほとんどの者たちが謎の病に倒れ、生き残ったのはヴァンと一人の幼い少女のみとなっていました。
ふたりはそれから岩塩鉱を抜け出し、さまよい続けるうちいっしょに暮らし始めるのですが、少しずつふたりに異変が起こり始めます。
 
また東乎瑠の若き天才医術師のホッサルは、すでに疫病で滅亡してしまった国の末裔で、移住民にまん延している謎の感染症“黒狼熱(ミッツァル)”の治療法を模索する中、その病原体の保有者を探していました…。
 
 
2015年の本屋大賞を受賞した超大作!
大賞を受賞する前にすでに読了していました。
同僚に「本屋大賞、『鹿の王』が取ればいいね」と言っていたのですが、同僚は「それはさすがに無理だよ」とけんもほろろでした。
でも!私の望み通り、この作品が受賞してしまったのです!!
心のなかでは、まるで私事のように「してやったり!」の心境でした。
 
上橋さんの『守り人』シリーズが大好きで、その物語と同じように架空の民族と国を舞台にした壮大なファンタジーがお得意の作風らしく、この作品もしっかり土着的なというか、地に足がしっかりついた感のあるファンタジーでした。
 
現代でも国際的に頭を悩まされている感染症のことや、国の侵略と統治、民族同士の争い、そんな中で主人公の人間としてどう生きていくべきかの葛藤が、ミステリアスな展開とともに描かれていて、かなり読み応えがあります。
またすぐに、次の作品が読みたくなりました。
 
…と、読んだ当時の感想ですが、その時は感染症に悩まされ、また大国が他国を侵略するなどという世界の現在の状況など知る由もありませんでした。
まるで近い未来を予見していたかのような設定と展開です。
 
そして、次が読みたい私の願いはおかげさまでその後叶うのでした。


第2章 『鹿の王 水底の橋』 上橋 菜穂子 著 (KADOKAWA)
                          2019.5.10読了

2015年本屋大賞受賞の前作「鹿の王」の続編。
今回はファンタジー色は薄らぎ、架空の世界ながら政治闘争や宗教や思想などもからめて、医療の角度から物語が語られていますが、相変わらず土着的なしっかりとした調査と豊富な知識に感服しました。
 

東乎瑠(ツオル)帝国にて、祖国オタワルの医療技術で地位を確立しつつある若き天才医術師、ホッサル。
恋人ミラルとともに、敵とも言える東乎瑠帝国に伝わる医療技術を携える真那(マナ 清心教の祭祀医)の姪の容態悪化を診るために、真那の父でもある安房那候の領地へ向かいました。
 
病に苦しむ患者の命をとにかく救うために、馬から精製した血清も全く厭わず使用するオタワル医術。
それに反して、獣など穢れたものを身体に入れるなどもってのほかと自然の成り行きに任せ、いよいよ患者の状態が悪くなると、神の思し召しと、抗うこと無く魂を天に送る魂送りと称する儀式で終えさせる東乎瑠帝国の清心教医術。
 
しかしホッサルは、清心教医術の源流を訪ね、まさかの真実を知ることになります。
そして、次期皇帝を選ぶ政争にまさか巻き込まれることになるとは予想もしていませんでした。
 
この政争には、オタワル医術の未来もかかっており、全くの他人事ではなかったのです。
 
そんな中、東乎瑠帝国の文化である歌会に政敵同士が集まった中で、“土毒”と呼ばれる食中毒が発生します。
犯人が狙った人物とは違ってしまった被害者。
そこにそれぞれの思惑が絡み合い、はたして政争と医術の選択は解決するのでしょうか!?
 
 
様々な伏線と、民族にありがちな問題がしっかり描かれていて、今回も読みごたえがありました。
やっぱり好きだな~、上橋さんの描く物語は!
さまざまなエピソードに政治や思想や民俗学的な文化も交えてあり、単なるファンタジー・架空の物語とは思わせない文章力です。読む者をぐいぐい引き込んでいく展開は飽きさせないし、大人も子供たちも満足できる読み物です。
今の世界情勢も想像させ、多くの人々にぜひ読んでほしいですね。
 
表紙の絵の、水の美しさも目を引きます。

今年のはじめに、この作品はアニメ映画にもなっています。ちなみに私は映画は観ていません。この壮大な物語を、約2時間ほどにまとめるのはかなり無理があるように感じましたが、ご覧になられた方はどう感じられたでしょうか。
 

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