「intermission ⑬」瀬田貞二氏の『行きて帰りし物語』
ここにあげた記事は、2006年12月に記録していた文章に加筆したものです。
“瀬田貞二さん”・・・おそらくあまりご存じない方の方が多いかもしれませんね。
たくさんの児童書の創作や翻訳で功績を残し1979年に惜しまれながら亡くなられましたが、この方はとてもシャイで控えめで講演とか講座を行うなどということを滅多になさらなかったそうです。
そんな瀬田さんが亡くなられる約1年前、もしかしたら“その時”を感じられたのか、珍しく最初で最後の講座「児童図書館講座」を都立日比谷図書館で、たった20数名の児童図書館員を相手に、月1の日程で開かれました。
途中で倒れられ、すべての講座をまっとうされることは叶いませんでしたが、当時講座を受けられた図書館員の話では、「それは“魔法の時間”だった」とのこと。
大変貴重で有意義な講座だっただろうことがうかがえます。
その時の内容をおさめた本が「幼い子の文学」 です。
新書版ですが、内容はかなり濃いものになっています。
その本の最初の項に『行きて帰りし物語』というタイトルで、絵本におけるまさに“行って帰ってくる”お話を例に論じられています。
『アンガスとあひる』
マージョリー・フラック作、瀬田 貞二 訳 (福音館書店)
↑ のマージョリー・フラックの『アンガスとあひる』は、保育園や幼稚園に通うくらいの年齢の子どもさんたちに向いています。図書館でのおはなし会でもよく読みました。
内容:
室内でひもにつながれて飼われている犬のアンガスが、庭の垣根の向こうから聞こえてくるあひるの「ガーッ、ガーッ、ゲーック、ガー!」という声を聞き、何の音なのか知りたがります。
ある日うっかりひもがつながれてなくて、ドアも開けっ放しということがあり、ここぞとばかりに庭に飛び出したアンガス。
垣根の下から出て、その正体を見ます。
2羽のあひるを見てアンガスはうなり、あひるは逃げ出しますが水のみ場で立ち止まり水をゆっくりと飲みだします。
再びアンガスはうなり、あひるたちを追い立てますが、今度はアンガスが水を飲んでいるとコソコソ話し合っていたあひるたちが、アンガスのことを追いたて始めました。
立場逆転の図です。(笑)
せいいっぱいで逃げて家の中に入ったアンガスは、ソファの下にもぐりこみ
「その後3分間は何事も知りたい、とは思いませんでした。」
というところで終わっています。
そう、行って帰ってくるお話です。
この“その後3分間は何事も知りたいとは思いませんでした”というのがいいですね。
だって、アンガスの知りたがりはそうそう簡単には治らないのですから。
そのことが描いてある絵本が、『アンガスとねこ 』という続編でも描かれいます。
今度はねことの格闘なわけです。
前回よりやや大きく成長したアンガスはいろんなことを覚えましたが、ねこに関しては知りたいことがまだまだあったのです。
今回は室内での行ったりきたりで、まるで『トムとジェリー』か、『わんわん物語』の中のワンシーンを思い出させますが、とにかく今回は最後にはねこと仲良くなっちゃうのです。
追いかけて逃げた彼らが、結局もとのリビングに帰ってきて、お互いがとても好きになっていることがわかったのです。
もちろん瀬田さんの訳によるものです。他にもアンガスのシリーズは『まいごのアンガス』という絵本もあります。いずれの絵本も、お話&キャラクターがとってもかわいいです。
『行きて帰りし物語』といえば、トールキンの『ホビットの冒険』『指輪物語』ですね。
これも瀬田さんの訳だし、他にも映画化された『ナルニア物語』もしかり。
(ナルニアも行って帰ってきますが、最終章はちょっと別なところに行ってしまいますがね…。)
あと、瀬田さんは『三びきのやぎのがらがらどん』や『マドレーヌ』シリーズや『三びきのこぶた』などの絵本も翻訳をされています。他にもた~~くさん!
個人的に大好きな幼年童話『きかんぼのちいちゃいいもうと』という本もあるのですが、このお話についてはこの講座でも話題に上っています。
講座を開かれた当時の時点で日本ではまだ翻訳されたものは出版されておらず、原書を自分なりに簡単に訳したメモを読み上げるということをなさっています。
後に2006年に亡くなられた渡辺茂男さんが翻訳されました。
(この渡辺茂男さんも多くの絵本を執筆され海外名作絵本を翻訳されています。)
(こちらの幼年童話もシリーズもので、他に2冊出ています。エピソードがとてもかわいらしいので、幼い子どもさんが親族におられたらお勧めされてみたらいかがでしょう。)
とにかくまずこの『行きて帰りし物語』の形をとったお話に、子どもはすごく興味を示し満足するということをおっしゃられています。
行って冒険をして、何かを学び、そして最後は自分の安心する場所へ帰るという黄金の設定を念頭において、児童書を手がける人は書き、子どもに物語を提供する立場の人はそういう本を子どもに与えるのが望ましいと言われているのです。
センダックの『かいじゅうたちのいるところ』などもすぐにこのパターンだなと思いつきました。
やはり名作と言われる絵本や児童書は、おおかたこのパターンの物語展開を描いているようです。
この他にも、絵本や児童書に関するすてきなお話が凝縮されているこの瀬田さんの講座をまとめたこの『幼い子の文学』は、子どもの本に関わる人すべてにとってバイブルのようなもの。子育てをされていて、子どもたちにどのような本を与えたらいいか悩まれている方にもとても参考になります。
ぜひご一読されることをおすすめします。
皆様のおかげで、先週の記事にご褒美をいただきました。
あの…数字的にはお恥ずかしいものではありますが、皆さんのスキのおかげなのは事実ですので、ありがたいことだなと思っております。
毎度感謝です💛