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「最後の最後にまさかの事実がわかる青春ミステリー~『ヴァイオレットがぼくに残してくれたもの』~」【YA83】

『ヴァイオレットがぼくに残してくれたもの』(SUPER!YA)
            ジェニー・ヴァレンタイン 著 冨永星 訳 (小学館)
                          2024.5.15読了

イギリスのロンドン北部に住むもうすぐ16歳のルーカスは、友人の家に泊まったあと夜明け前に帰るのに、タクシー会社に入ってタクシーを頼もうとしたことから始まる不思議な出来事に遭遇することになります。
 
タクシー会社の事務所の棚にはなぜか忘れ物の骨壺が置いてあって、ルーカスはその骨壺に妙に魅かれてしまいます。
骨壺の中はヴァイオレットというおばあさんのなごりが入っており(なぜ名前がわかったかと言うと、骨壺に書いてあったからタクシー会社のボスが教えてくれたんです)、どうしても煙草臭い事務所の棚なんかに置いておくわけにはいかないという気持ちにさせられ、自分の祖母に協力してもらい何とかヴァイオレットを救い出すことに成功します。こんな自分を変だとは思いますが、実は思わぬ展開に進んでいくことになるのです。
 

ルーカスには若い頃とても綺麗だった母と姉と5歳の弟がいますが、父親は弟が生まれる前に家を出て行ってから全く何の連絡もよこさないので、母は精神的にずいぶん追い込まれていました。
というか、母は父親との結婚式が始まったとたんにこの結婚を後悔してしまったらしいのです。
 
若い時からハンサムでかっこいい父親を大好きだったルーカスはだんだん父親に似てきているので、母はルーカスを見るとイラついてしまいます。
 
そんな家族に内緒で祖母の家に置いてもらっている骨壺を見ているとルーカスはある日、死んだはずのヴァイオレットの気持ちがどういう訳か理解できる気がしてくるのでした。それが何か訳があるのか、その時はわかるはずもなかったのでした。なぜかわからないけれど、ヴァイオレットが応えてくれている気がしたのです。
そして、もしかしたら自分に何かを訴えかけているのかも…。
 
しかしヴァイオレットのことをいろいろな方面から詳しく調べていくうちに、意外と身近に存在していた人物だったことやかつてピアニストだったこともわかってきます。
 
また母の日記をつい盗み読みしてしまったことで母の本当の気持ちがわかり、父親の残したかつての記者の仕事として録音していたヴァイオレットへのインタビュー音声テープを父の部屋で発見し、そして父親の仕事仲間だったボブから聞いた話で、ルーカスの抱いていた推論はとんでもない結末に行きつきます。
 
いったいヴァイオレットとは何者か?
父親はなぜ突然何も告げずに失踪してしまったのか。果たして生きているのか、まさか死んでいるのか?
不思議な物語の中で、あるミステリーが展開していきます…。



最後はまさかの真実に行きつき驚愕します。
そしてその結末を知った後、ルーカスが決心してとる行動に溜飲が下がる思いで、なんともスッキリした気持ちに読者もなるのです。
ルーカスが愛する父親の隠れた部分を知り、そしてヴァイオレットの残した言葉の中や、その他のいろいろな事柄に結末への伏線が散りばめられていたのだなと最後になって「そういうことだったのか」と納得の流れ。
 
 
この物語は、作者が初めて書いたYA向けの小説で2007年のガーディアン文学賞(イギリスの現役児童文学作家が選ぶ児童文学賞)を受賞し、同年のカーネギー賞(イギリス最大の児童文学賞)の最終候補にノミネートされました。
出版当時、現地はもちろん他国でも話題になったという本です。
 
イギリスでの当時の若者のリアルを描く青春小説の一面もあり、また家族のつながりの一瞬で崩壊しかねない脆さも描かれています。
子どもがある日突然知る両親の本当の姿に戸惑うところや、衝撃を受けた後の癒しをどういう風に求め、様々な葛藤を子どもながらにどう処理していくのか。思わぬ出会いと展開にどうにか対処していくところに、16歳の若者の成長も見て取ることができるのではないかと思います。


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※若い人たち(YA:ヤングアダルト)には、思春期の時期にたくさん本を読んでさまざまな考え方や社会の問題にも触れて、心の成長に役立ててほしいです。
もちろん大人向けの話題の本を読むのもおおいにお勧めしますが、できれば年齢に合わせた本もたくさん出版されていますので、まずそれらを読んで、自分たちと同年代の若者が登場する物語に自分と重ね合わせてみるのもいいと思います。
日本の作家が描くYA本は、本当に身近な問題を取り上げているものが多く、登場人物に感情移入しやすいと思います。
海外のYA本は、あまり身近には感じられないかもしれませんが、海外の若者も案外同じようなことで悩んだりしていることがわかったり、知らなかった世界に触れることもできたり、新たな魅力を知ることができます。

今のYA世代の子どもたちは以前より読書に関して消極的です。
楽しいものがこの世にはたくさんあふれているし勉強も大変ですから、読書する時間もきっとないのでしょうね。
それを危惧する大人もおられるとは思いますが、そのような大人からまずこれらのYA本を読んでみて、子どもたちに勧めてみるのも説得力が増すのではないかと思いますよ。

という訳で、ここでは大人も読んで満足できるYA本をご紹介しています。
皆様のお気に召す本が見つかりましたら幸いです。

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