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「かつてない怒りと葛藤が怪物を生み出してしまった~『かかし~今、やつらがやってくる』~」【YA75】

『かかし~今、やつらがやってくる』 ロバート・ウェストール 作 
 金原 瑞人 訳 (福武書店)
                          2004.6.20読了
 
この一週間ばかり、学校図書室に関するボランティアに明け暮れておりました。お金にはならないけど、子どもたちの図書室環境が少しでも良くなるのなら、苦労も厭いません( ;∀;)

なんて、愚痴とも喜びともどちらとも言えないようなことはさておいて、今回の紹介本は、'81年イギリスにて児童文学の最高賞であるカーネギー賞を受賞した本です。
 


寮生活を送るサイモンは、小さい頃に英国軍人の父親を亡くし、残る家族は愛する母親と幼い妹のジェーンがいます。
その母親が見知らぬ反戦主義者で芸術家の男と再婚をすると言い出しました。
男はサイモンに言わせれば、体が大きいだけのサイテーなやつで、絶対に自分の父親になんかにならせてやるもんか、と思い反抗的な態度ばかりとっていたのです。
 
自分にとっての父親は、軍人で何をも恐れなかったかっこいいパパ、たったひとりなのだから。
 
だから母親の再婚は父親に対する裏切り行為と受け止めていました。
 
でも事態はサイモンの思うようにはならず、夏休みは再婚相手の男の家で過ごす羽目になってしまったのです。
 
最悪の夏休みとなりました。
なぜなら、その家の近くには古い水車小屋があり、そこはかなりいわくつきの小屋だったからです。
サイモンたちに、それから大変恐ろしいことが待ち受けていたのです…。

14歳という今時の世間でも“中二病”だとか言われたり何かと話題の中心になることも多い年頃の男の子の、せつなくてゆれる心の葛藤を描いたYA本です。

そういう心理的に不安定な時期の心情とミステリー&ホラーを混在させた物語で、当時の読者である子どもたちの心の琴線にも触れたのでしょう。大人気となり大きな賞の受賞につながりました。
 
大好きな母親を見知らぬ他人にとられ、大好きで尊敬していた父親をも裏切られ今まで自分の中には存在しないと思っていた暴力的な内面や、抑えきれない怒りが自分でもどうしようもないくらいコントロールできなくなっていきます。(それをサイモンは、悪魔が自分の中に入ってくると表現しています)
 
そんなサイモンの心情と昔起こった事件の秘密とが、恐ろしい“かかし”というおぞましいモノを生み出してしまいます。その“かかし”をやっつけることで、サイモンは少しずつでも現実を全て受け入れ、大人へと成長していくのです。
 
何かと難しいこの年頃。
大人でも子どもでもない時期のさまざまな感情のゆれが痛ましいほどに描かれています。
かなり感情移入してしまいました。
 
私が読んだのは市の図書館に所蔵されていた福武書店から出されていた古い方の本でしたが、そちらは絶版となり、現在は徳間書店から改訂版が出ています。
改訂版はサブタイトルの「今、やつらがやってくる」は付いていないようですね。
 
この本を読んだ約半年後、やっと図書館業務(正確にはまずは公民館図書室の仕事)に関わることができ、やる気と嬉しさがハンパなかったです。
「自分が本を知っておかないと」と思いたくさん本を読まなきゃ!と、読める時間があればそれまであまり読んでこなかったYA世代のための本を中心に読みました。
 
その中でもロバート・ウェストールの本は、子どもたちを取り巻く問題をミステリーやホラーなどと絡めていてとても読みやすく面白かったので、いろいろ読んでみました。(過去にも数冊ここでご紹介しています…以下)

そのウェストールの読了本の第1冊目がこの『かかし』でした。
巻末のあとがきに、ウェストールを紹介する文章が書かれており、出版されたイギリス本国でとても人気があるということが書かれていました。子どもたちが選ぶ著者に与えられる賞や権威ある賞など、実力と人気を備えた作家さんなのが読んで理解できました。
 
おまけに数年後は、宮崎駿監督もウェストール氏と作品が好きで、お互い交流もあったようですね。
その後はウェストール氏が亡くなり新たな本は読めませんが、彼の偉業は多くの方の記憶に残っていると思います。


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