草蛇乃宮

不定期で小説書いてます 誤字報告、感想をいただけると嬉しいです

草蛇乃宮

不定期で小説書いてます 誤字報告、感想をいただけると嬉しいです

記事一覧

【小説】『消えたモノ』

「天谷先輩、これは何ですか?」 目の前の机にどさっとおかれた紙束を見ておれは訊いた。相手は二年の天谷みやこ先輩。うちの部活の部長だ。 「見ればわかるだろう。三条…

草蛇乃宮
4年前

【小説】陰者のジレンマ

 世界は不条理と妥協でできている。そんなことは、僕が生まれる前からの暗黙の了解。 「雲居くん、放課後よろしくね」  だから僕が風邪で休んでいる間に、文化祭のクラス…

草蛇乃宮
4年前
2

【小説】この雨が止むまでに

 迂闊だった……。出かける前に天気予報なんて確認してなかったし、僕が外に出たほんの20分の間に空が急変するとも思ってもみなかった。 「暑い……」 「そだね〜」  …

草蛇乃宮
4年前
2

【小説】聖夜、誕生と滅亡――23:59

『初めまして。この世界を救いたいですか?』 ・・・・・・・・・  満天の星が厭に煌めいている。それはクリスマスイヴの夜のことだった。街中がイルミネーションに彩られ…

草蛇乃宮
4年前
2

【小説】水性花火 ~雨が降ったら~

序章:積雨『別れる男に、花の名を1つ教えておきなさい。花は毎年必ず咲きます』  村上春樹だったか川端康成だったかの小説に出てきた言葉。この一節をあのヒトに、本で…

草蛇乃宮
4年前
3
【小説】『消えたモノ』

【小説】『消えたモノ』

「天谷先輩、これは何ですか?」

目の前の机にどさっとおかれた紙束を見ておれは訊いた。相手は二年の天谷みやこ先輩。うちの部活の部長だ。
「見ればわかるだろう。三条くん。文化祭の収支表企画説明図その他資料だよ。先日の文化祭で何をしたか記録するためのものだ」
「うちの部はもう全部提出したはずじゃ……」
「ああ、だがそれだけじゃ終わらないぞ。全クラス・部活の収支を計算して資料にまとめて会議に提出しないと

もっとみる
【小説】陰者のジレンマ

【小説】陰者のジレンマ

 世界は不条理と妥協でできている。そんなことは、僕が生まれる前からの暗黙の了解。
「雲居くん、放課後よろしくね」
 だから僕が風邪で休んでいる間に、文化祭のクラスの広報に選ばれていたとしても、そこに怒りや不満はない。ただ一吹きの溜息と諦念があるのみ。
 顔を上げて確認すると、声をかけてきたのは作り笑いの張り付いたような女子。スクールカースト上位に属している……えっと、名前なんだったけな。ま、良いか

もっとみる
【小説】この雨が止むまでに

【小説】この雨が止むまでに

 迂闊だった……。出かける前に天気予報なんて確認してなかったし、僕が外に出たほんの20分の間に空が急変するとも思ってもみなかった。

「暑い……」
「そだね〜」

 日本の夏の悪しき点はやはり湿度にあると思う。空気を汗が蒸発できない程の飽和水蒸気量にすべく、せっせと涙を流す夏空先輩は、同じく軽々しく涙を流すメンヘラ上司と被って実に不愉快。自分の都合で他者に迷惑かけんな。

「なんで?」

 目の前

もっとみる
【小説】聖夜、誕生と滅亡――23:59

【小説】聖夜、誕生と滅亡――23:59

『初めまして。この世界を救いたいですか?』
・・・・・・・・・
 満天の星が厭に煌めいている。それはクリスマスイヴの夜のことだった。街中がイルミネーションに彩られる中、俺は一人Lのつくコンビニで買ったスパイシーチキンを食べていた。
「あのコンビニはもう行けないな……」
 別に俺がもうすぐ引っ越すわけでもなければ、あのLO-損が経営難で潰れるわけでもない、単純に、「ファミチキください」って言ったせい

もっとみる
【小説】水性花火 ~雨が降ったら~

【小説】水性花火 ~雨が降ったら~

序章:積雨『別れる男に、花の名を1つ教えておきなさい。花は毎年必ず咲きます』
 村上春樹だったか川端康成だったかの小説に出てきた言葉。この一節をあのヒトに、本でこれこれこんなことを読んだよ、みたいなノリでそれとなく伝えたことがあった。別段僕は当時あのヒトと別れるつもりなんてなかったし、あのヒトだって別れる前提で僕と付き合っていたということはなかったように思う。でも僕がその一節を漏らしたとき、あのヒ

もっとみる