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冬、美しい黄泉の国へ。│草津温泉・奈良屋

Feb.2022

「せっかくなら今回は、宿を満喫する旅にしない?」

彼女のひとことで、行き先は 冬の温泉宿に決まった。
10代の頃は、体力にまかせてアクティブに動き回る旅ばかりしてきたけれど、ゆったりとした旅の楽しみ方ができるようになったのも、大人の醍醐味かもしれない。

草津温泉


車を走らせること3時間。都内ではまったく目にすることがなかったのに、山を登るにつれて路面に雪が積もりはじめて驚く。車窓の風景が、だんだんと雪景色に変わっていく。そうして辿り着いた温泉街は、深い銀世界に閉ざされていたのだった。


店の立ちならぶ観光街をすこし行くと、ごろごろと大きな岩が連なり、湯気のたつ川の流れる場所があった。
すぐ戻れば、あれほどの人で賑わっているというのに。
まるで俗世とは思えないような、異様な雰囲気だった。


「さいのかわら」と読める名前からも、そこは黄泉の国を思い起こさせた。見たことのないような層に積もった雪を眺めながら、湯けむりの道を歩いていく。

「もし死後の世界があるとしたら、こんな感じなのだろうか」と、不思議な風景をみている気分だった。


そうして温泉街に戻ってくると、やはりたくさんの観光客で賑わう草津の風景で、ちょっとほっとする。

気になっていた "あげ饅頭" を食べたりしながら 湯畑のまわりを一周してみたけれど、どちらともなく「もう宿に行こうか」と意見が一致して。

楽しみにしていた、本日の宿へ向かった。

奈良屋


そこは以前、わたしが草津を訪れたときに一目惚れした
" いつか泊まってみたい " と思っていた旅館だった。

草津最古といわれる白旗温泉の湯をひく、趣のある木造の湯宿「奈良屋」。ここでは「湯守」とよばれる職人さんが、丁寧に湯もみをした温泉を楽しめるのだという。

白旗温泉

館内は調度品や絵画が飾られ、安らかな香りに満たされていて。見晴らしの良い客室は、 和のテイストがありながらも モダンで落ち着くお部屋だった。

comfort  floor  「 鼓 」


 あたたかいお茶を淹れて、ほっと一息。
 冷えた身体に染み渡る…

窓からは、降りしきる雪が見えた。都会に住んでいたので、こんなに雪深い風景を見たのは初めてだったかもしれない。まだ観光もほとんどしていないけれど、「今日はなにもせず、のんびりしよう」と笑った。

夕食の時間も、温泉宿のお楽しみ。


冬の便り」、「冬銀河」、「雪化粧」 …
二月の御献立は、雪になぞらえた一品料理。ひとつひとつ運ばれてくる美しいお料理を、時間をかけて、ゆっくりと味わう贅沢。

そしてデザート前の「雪祭」では、職人さんが目の前で寿司を握ってくれる " 寿司Bar " の時間に。お腹もいっぱいになってきたけれど、美味しくてついつい食べ過ぎてしまう…

こんなに愉しいディナーは、いつぶりだっただろう。
大将や料理人さんの心遣いに、心まで満たされた。

お腹も満たされて、待ちに待った温泉へ。

https://www.kusatsu-naraya.co.jp/onsen/index.html


「御汲み上げの湯」と呼ばれる、乳白色のような、淡い青色の温泉。なんだろう、もう、本当に素晴らしくて…

これまでに訪れた宿はどれも素敵な思い出なのだけど、あまりにも温泉も料理も素晴らしくて、「もう一度泊まりたい」と思ったのは、初めてだったかもしれない。

そして温泉は何度でも楽しみたい。夜にまた眠る前と、朝風呂もしっかり満喫しようと心に決めた。


身体もあたたまり、浴衣を纏って夜の温泉街へ。
空気はひんやり冷たいけれど、足湯や自由に入れる温泉もあり、多くの人が思い思いに楽しんでいた。

そして湯けむりの立ち上る街は幻想的で… 昼間に歩いた時とは、まるで表裏一体のような。幽玄で美しい世界がそこにあった。



    ああ。やっぱり、美しい黄泉の国に来たみたい。

「 夜が明けたら、また朝の街を歩いてみようか 」と
    手を繋いで、湯宿へ戻った。


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