拝啓 あみ様(作詞のおすすめ)1

【これはシンガーソングライターの卵である「あみ」さんに、作詞のアドバイスをしたものです。ちなみに、私は別にプロの作詞家ではありません。】

あなたの詞は、全体的に言って、抽象的、観念的なんですよね。それを説明する言葉たち。これはいけません。きつい言い方になるけど「自己満足」です。これでは他人に伝わりません。「思い」を込めているのだろうけれど、その「思い」が見えない。届かない。つまり「表現」になっていないのです。あなたが語っているのは「表現」の材料なのです。材料をそのまま並べられても困ります。どんな新鮮な素材でも、料理しなくちゃ食べられません。わかりますよね?
ということで、料理の仕方を覚えましょう。それに尽きます。(材料の新鮮さ、おいしさも大事だけど、それはまた後日)
「自由になりたい」「逃げ出したい」「こんなところで立ち止まりたくない」「飛び立ちたい」「私がここにいることを見てほしい。認めてほしい」「私の声を聞いてほしい」
そんな感じかな? いいでしょう。ありがちと言えばありがちだけど、でもそうだからこそ同世代の共感を得やすいとも言えなくもない。たぶん、多くの若者が感じている閉塞感ですから。
さて、どう料理するか?
必要なのは、質感であり、手触りです。別の言い方をすれば、リアリティです。説明しても「思い」は伝わりません。たとえば、あなたの知り合いが「私、悲しいの」って1時間言い続けたらどうですか?「ああ悲しいんだ」「かわいそうだ」「助けてあげなくっちゃ」と思いますか? 違いますよね。うんざりするだけでしょう?
今の歌詞に書かれている言葉たちは、たぶんとっても多くの女の子たちが、ブログとかでポエムなんかの形でつぶやいているのと同じ言葉です。同質の言葉です。そんなの、みんな見飽きているんです。「ああ、陰キャラの子が、また何かぼやいてるよ」でしかないのです。
それを「表現」、すなわち、あなたの表現、あなただけの表現にするにはどうすればいいか?
まず知っておいてもらいたいのは「事実をして語らしめる」ということです。説明の言葉じゃなくて、具体的な事実やモチーフや物語を配列することで「思い」を語るというやり方です。
例えば、私の大嫌いな尾崎豊の「I Love You」に、  

きしむベッドの上でやさしさ持ち寄り きつく体抱きしめ合えば
それからまた2人は目を閉じるよ 悲しい歌に愛がしらけてしまわぬように

というフレーズがあります。この中に「やさしさ」とか「悲しい」とかの観念的な言葉もありますが、それはあまり重要ではない。重要なのは、「きしむベッドの上でやさしさを持ち寄る」とかとか「悲しい歌に愛がしらける」といった表現です。
たぶん駆け落ちか何かしたカップルなんでしょうね。あの頃は「愛さえあれば何とかなる」と信じてたのに、その思いがだんだん色あせつつあることへの不安。安いアパートを借りて、カップ麺ばかりの生活を送る中で、「こんなはずじゃなかった」という思いを2人共が抱きだしてるんだけど、お互いにそれは言えない。もう「やさしさ」だけではやっていけないことを知ってるから、それが恐いから、きつくきつく抱きしめ合う。淡々と流れる灰色の日常に2人の愛が負けてしまいそうだから、きつく抱き合って眠るしかないんだ。せめて夢の中で愛の物語の続きが見られるように。
そんな感じですかね?
どうです? 説明セリフは一つもないけど、具体的なドラマがありますよね。「悲しい」「つらい」だけでは伝えられない「思い」が見えて来ませんか?
ここで重要になって来るのは、1つは「きしむベッド」という小道具です。これ1つで2人の関係性がかなり具体的にイメージできます。それからメタファー(比喩)です。歌詞を書く場合、このメタファーが最重要であると私は考えます。
「ベッドの上でやさしさを持ち寄る」? もちろん「やさしさ」なんか持てたりしません。いわば通常の日本語としてはおかしい。ブロークンです。でも、だからこそ、聞く人に「アレ?」と思わせるのです。耳に新しいのです。「アレ?」と思った人は考えます。ひょっとして2人で安いバイト代を持ち寄ってカツカツの生活をしてるのかな? 今の彼らにはそれぐらいしか「やさしさ」を具体化できる手段はないのかな? とか。あるいは、「愛してるよ」「ねぇ、もう1回言って!」「だから愛してるって」「もう1回!」と言い合うくらいしかこの2人には愛は残ってないのかな? とか。
「悲しい歌に愛がしらける」だってそうです。「悲しい歌って何?」「愛がしらけるってどういうこと?」と思いますよね。これがメタファーの力です。
重要なのは、使われてる一語一語は、ごくごく平凡な言葉であるということ。小学生でもわかる言葉ばっかりです。それが、こんな風に組み合わせる、配列することによって、「知ってたはずの言葉」が「知らない言葉」=「新しい表現」に化けるのです。ここがミソですね。
ここで言っておきたいのは、「平凡な言葉」であることの重要性です。決して難しい言葉や英語なんかを使ってはいけません。また、「具体的な言葉」であることも大事です。手でさわれるような、質感や温度が感じられるような、そういう言葉を選ばなくてはいけません。「孤独」とか「絶望」とか「自由」とかの観念的な言葉は、絶対使うなとは言いませんが、使い方がむつかしい。言葉自体が自己完結してるし、何より手あかが付いたありふれた表現になってしまいやすいからです。だから、「悲しい歌」みたいに味付けして一工夫することが必要になってきます。
どんな素材を選ぶべきかはわかったでしょうか?
後は、肝心の料理の話ですが、そろそろ朝が近づいてきたので、また明日。
ヒントだけ言っておくと、さっきの「順列組み合わせ」ですね。

それでは、おやすみなさい。

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