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人はなぜ移動するのか?- 幕末から明治の日本人のグローバルモビリティ-

私はイミグレーションの専門家として、多くの人々が国境を越えて移動する現場に立ち会ってきました。
そんな私が長年抱き続けている疑問があります。それは『人はなぜ移動をするのか』という根本的な問いです。

ずっと同じ場所に留まっていたほうが、安全で余計なコストもかからないはずなのに、なぜこんなに人は国境を超えて移動をし続けるのか?なぜ企業は多大なコストをかけて人を動かし続けるのか?

恐らく、様々な答えがあるのだと思います。
適材適所の人材配置や、多様な環境を経験することで得られる成長、組織の活性化などなど・・ただ、腹落ちはしていません。もっともっと根源的ななにか、人間が移動することによって生まれる何かがあるはずなのだと思っています。
そんな中、この問いのヒントとなる非常に興味深い本に出会いました。
「そこに日本人がいた!海を渡ったご先祖様たち」熊田忠雄 著です。

この本では、幕末・明治期に国外に渡った日本人の足取りが正確な記録に基づき実にイキイキと描かれています。
昔の日本人の海外渡航の記録はあまたありますが、この本の面白いところは、政府の留学生等ではない一般の、そして名もなき日本人について「最初の居住者」「最初の渡航者」に絞った記録が描かれているところです。

トップバッターの日本人は、明治3年生まれの茨城の農家の3男。彼は20歳になるかならないかで日本を飛だし、まずサンフランシスコに渡り、ボーイとして働きます。その後、日本移民の急増していたハワイに渡り、現地の日系移民の女性と結婚。その後2人で一度は日本に帰国するも、資金をためて前人未踏の地で一旗挙げようと南アフリカのケープタウンに移住。夫婦でゼロからビジネスを立ち上げ、成功を収めました。彼は日本からの船が来るたびに礼装に身をつつみ、ケープタウンの桟橋で丁寧に日章旗を振って出迎えたのだそうです。

これは、ざっくりとした「移民」という言葉では片付けられない、あなたや私の祖先だったかもしれない、日本人の生々しい、そして尊敬すべき記録です。実際1話ずつ、きっちりと鳥肌が立ちました。

著者は、「はじめに」でこう書いています
「彼らは何を思い、何に駆られて祖国を離れたのだろう」

止めようのない好奇心、貧困から脱出など様々な理由や事情はあるものの、そこには「行かざるを得なかった」根源的な移動に対するエネルギーを感じます。

今では、手元のスマホで世界中の情報が手に入ります。
でも、スマホで手に入る情報は、正確ではあっても物理的な移動によって手にはいる体験とは全く異なっているとも感じます。情報社会が進展した現代でも、実際に動いて未知の世界を体験することの価値は変わらない。
そう考えると結局明治でも、今でも本質的なことはあまり変わっていないような来もします。そう、「結局は動いてみないと分からない。」


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