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飯田線の駅案内標に残るノスタルジー

ホームの駅案内標の書体が目に入った。
漢字と欧文が豊橋出身の故林隆夫らによるサイン書体「JNR-L 1」である。

最近、私のJRの利用は殆どが新幹線に限られるため、駅案内標に使用されている書体は、ほぼ「ゴナ」や、「新ゴ」が使われていると思い込んでいた。

JNR-L 1

飯田線で見た「JNR-L 1」は、昭和五十五年ごろに、タイプディレクターに石川忠・佐野稔・林陸夫、デザイナー小芦重行によりデザインされたサイン用書体「サインGB」が、国鉄採用時に角を丸くリデザインされ、東北・上越新幹線の各駅のサインに使われた。

スミ丸ゴシック

それ以前の国鉄の制定書体に、「スミ丸ゴシック」がある。正式には「すみ丸角ゴシック体」と呼ばれ、駅案内標(駅名標、駅構内の案内表記など)などに使用され、「鉄道掲示基準規定」で、一辺の大きさの八分の一半径で角を丸くすると定められた。

鉄道掲示基準規定

 旧国鉄の表示では、ゴシック筆という専用筆を使えば一筆で描けた先端が半円形の「丸ゴシック」がよく使われていた。また、角ゴシック体は筆で手書きするとき、角を直角にするために、書いた後に角を小筆で整える必要があった。そのため、修整なしに描ける「角が少し丸いゴシック」つまり「スミ丸ゴシック」風もよく使われていた。なんのことはない、看板屋さんの都合で選択された技法から生まれた書体なのだ。それを後追いして「鉄道掲示基準規程」としただけなのだ。

制定書体として、見本が示されたとはいいながら、仮名とアルファベット・算用数字だけで、漢字は部首が示されただけである。その上、当時は手描きのため、制作者によって形が違う。つまりは、この制定はただ角ゴシック体の角を丸めるだけのことで、角ゴシック、丸ゴシック、あるいは明朝体という書体のカテゴリーを決めただけのものである。

そして、国鉄の制定書体として「サインGB」が採用されるときにも、この角まる(スミ丸)の伝統(悪しきノスタルジー)が「JNR-L 1」にもされたのだ。
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駅名の表記は明治期以降、長らく平仮名表記が表記され、東海道新幹線開業時の新幹線用駅名標は、漢字が大きく表記されたが、飯田線等の在来線の表示には古いスタイルの平仮名表記が残ることになった。

JR東海は、昭和六十三年にコーポレートカラーを帯状に配した新デザインを制定、漢字と欧文には「JNR-L 1」を採用。仮名は、いわゆる「すみ丸角ゴシック体」と定めた。漢字に「JNR-L1」が使われたのは、おそらく「すみ丸角ゴシック体」にはしっかり制定された漢字がなかったためであろう。
 
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