第1回◆歴史を冒涜する者は「現在」の社会も破壊する
安田 浩一(ノンフィクションライター)
「そういうこと、話したがる人はいないでしょう」
うんざりした口調と嫌悪の視線が私に向けられる。面倒な人間に遭遇してしまった時の後悔といら立ちだけが痛いほど伝わってきた。
無駄を承知で私は抗弁する。
いや、「そういうこと」に意味があるんです。大事なことなんです。
相手の表情にさらに険しさが増した。おそらく、私の言葉は重いぬかるみのような感情を引き出す以外に効果はなかったのだろう。
「特に話すことは何もないんで」
拒絶