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リアルな場の価値はどうなるか −コワーキング編−

コワーキングスペースという場に取り組んで約8年。コロナショックを経て、これからのコワーキングがどうなるか【before/with/after COVID-19】の視点で考察してみました。

Beforeコロナのコワーキングスペース

With/Afterコロナにおける複数のコワーキング様式を提示する為にも、議論の土台として最初に「個ワーキング」と「Co.ワーキング」という二つのコンセプトの違いを紹介します。(これまでのコワーキングスペースをBeforeと表現しますが、この二つは、withコロナ現在でも存在しています。)

"個ワーキング"または "孤ワーキング"

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COMWARE TO SPACE (©︎Kenta Hasegawa)

 "個ワーキング"または "孤ワーキング"
・個人の為の作業スペース。自前オフィスの代替として利用するワーキングスペース。 
・または、自社オフィスのサテライト(別拠点)として個人利用。
・PC作業がメインで、効率を重視した家具配置。(図書館の自習室的)
・コミュニティ感はない。無作為だが、イベントや交流会はある
・従量課金モデル(レンタルスペース・モデル)
・スタッフも孤

コロナ禍となる以前の日本のコワーキング・スペースに見られたのが、「個(孤)」の仕事に最適化したシェア・スペースです。機能としては図書館の自習室やネカフェに近く、意匠と設備によって付加価値を高めることで差別化し、利便性や快適性を担保します。私自身これを時々、Disって使ってしまいますが、これ自体の存在価値を否定するものではありません。ターミナル駅や自宅最寄駅などにコワーキングが増えることで、オフィスワーカーの直行直帰などを可能にし、多様な働き方を促進してきました。利用価値は物理的空間と付帯設備にあるので、スペースの利用料が主なビジネスモデルです。利用料はスペースの不動産賃料や構築コストと相関。スペース利用料を主な収益とする為、できるだけ多くの座席を配置した方が収益率が高く密な設計が支流でした。そして賃料以外の固定費を下げる為にも現地のスタッフ数を抑えたい。オーナーが自営するか、最小人数の受付・見守り・営業スタッフといった"孤"の人員で臨みます。もう一つのコワーキングとの対比を考える為に、あえて「個ワーキング」または「孤ワーキング」と表現しました。

Co.ワーキング

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鈴与株式会社本社の共創空間 5階 CODO (©︎Kenta Hasegawa)

Co.ワーキング(理想の姿)
・集合知 / 問題解決(の支援)を目的としたコラボ・スペース
・プロジェクトを複数人で推進する場所
・アジャイルな空間(個にも/集団にも対応)
・邂逅(セレンディピティ)を狙っている
・共創プログラムがある
・コミュニティマネージャー・コーディネーターがいる
・複数の収益モデル:出資、協賛、供託

個ワーキングに足りない要素として「Co-Creation」「Collaboration」「Community」の3要素が挙げられます。カタカナで表現されたコワーキングを再び英語に戻すとCo-Working。「Co.」には、この3要素が含まれており、本来は、集合知や問題解決(の支援)を目的としたコラボレーション・スペースです。日本では、フリー・エージェント社会はまだ本格到来していませんが、会社リソースのみに閉じないプロジェクトベースの仕事やプロジェクトごとに拠点を変える働き方は増えています。(私自身、渋谷に3拠点を掛け持って働いています。)Co.ワーキングは、個人でなく複数人でプロジェクトを推進する場所ですが、多くは個ワーキングの機能も内包します。個にも集団にもフレキシブルに受け入れ対応できる、アジリティ(Agility)ある空間が求まれます。本質的には、邂逅を、セレンディピティによって生まれる価値創造を狙っており、出会いやその先の共創を生み出すような仕組み(プログラム)が用意されいて、利用者同士を繋ぐコミュニティ・マネージャーやコーディネーターといった役割の人が常駐しているのもCo.ワーキングの特徴です。価値創造を狙っている、または価値を享受したいステークホルダーが出資、協賛、供託しており、利用者からの利用料があったとしても、ステークホルダーからの運営収入が質量ともに重要なウェイトを占めます。

Withコロナのコワーキング

2020年、私たちはコロナ禍という世界規模の災害の渦中です。withコロナという言葉が生まれ、人と人がリアルに会うことはプレミアムな体験とまで表現されるようになりました。コワーキングがwithコロナにあってどのように変化したのかは、まだリサーチが足りていませんが、私自身のwithコロナ体験もふまえて新しいコワーキングの三つのコンセプトを先読みして挙げたいと思います。

コワーケング(機能の小分け) 

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コワーケング(機能の小分け) 
・出社できず、Work From Homeもできない人向けの個ワーキング
・既存のコワーキングの感染対策を徹底し・蜜も回避して営業
・住宅街、住宅地の近くに増える個ワーキング
・小規模でも成り立つ(飲食店が複業で二毛作 )
・オンラインミーティングがしやすい環境(Wi-Fi や防音対策あり)
・感染防止対策のされた間仕切り=小分け空間
・オンラインミーティングがしやすい環境(Wi-Fi や防音対策あり)
・感染防止対策のされた間仕切り空間(通気性の良いネカフェ)
・別名:孤・区ピット(コックピット)

コロナ禍においてオフィスメーカーやコンサル企業が一斉に、オフィスにおける机の間仕切りシミュレーションやフィジカル・ディスタンスの指標を発信しました。デスクの間には透明なアクリル板や衝立てが設置され、パーテションで小分けして飛沫感染を防ぐよう試みています。こうした対策は個ワーキングにも適用されるでしょう。他方、STAY HOMEで在宅ワークを強いられるも、自宅に仕事環境が整っていない人は大変苦労しました。私の同僚のなかには、共働きするパートナーに近所のカラオケボックスでリモートワークをしてもらったという強者もいて、個人だけでなく家族の事情でWFH(Work From Home)が適わない人も多くいました。そこで、既存のコワーキングに感染対策や間仕切り="小分け"を施したコワーケングが誕生し始めます。特に住宅街や郊外の駅前の個ワーキングはコワーケングにして衛生管理を徹底すれば、withコロナでも十分に存在価値が生まれます。小さな規模でも始められますので、客足に苦戦した小規模飲食店やカフェもこのコワーケング業態を実施すれば、複業的に収入を得ることもできるでしょう。一方で、都心のターミナル駅の個ワーキングは、人の通勤が減る分、コワーケングをしても人の戻りは変わらないかもしれません。しかし、withコロナで加速したリモートワークとの掛け合わせで、オフィス賃貸契約を縮小してコワーケング契約に切り替える企業も増えているそうなので、そこには活路が見えます。

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鈴与CODOに設置され電話会議用ブース (©︎Kenta Hasegawa)

自宅よりも安心・快適で、オンラインミーティングに最適化したコワーケングも普及するかもしれません。安定したネット環境、感染防止策が徹底された間仕切り空間であれば、そこにビジネスチャンスはありそうです。(競合は、通気性の良いネカフェの個室。)私はこれを「孤・区ピット(コックピット)」と名付けました。コワーケングよりもさらに孤立化(isolated)され、区分けされた機能として、どのようなコワーキングスペースであれ、その一部には求まれるかもしれません。(個人的には、あまり興味がありません。)

ロコワーキング(Loco-working)

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ロコワーキング(Loco-working)
・住宅地や郊外は人が動いている #stayhome
・地域の個ワーキングが発展した地域密着型Co.ワーキング
・地域で仕事を生み出したり、協働活動が進む #actlocal
・都心一極集中 < 地域社会圏主義
・共に暮らし、仕事をうみ、活動をする。共存共栄スタイル。
・運営費はレベニュー・シェア。

地域密着型のコワーキングは、コロナ以前も存在しましたが、出入りする顔ぶれに変化がありそうです。緊急事態宣言になり、都心の人出がまばらになっても住宅地や郊外は人が動いていました。そこでローカル型のCo.ワーキングにチャンスが生まれています。今までは地元の仕事をするフリーランスや地域を営業先とする個人事業主の仕事場だったスペースに、都心へ通勤することが不要となった人(その地域に暮らす大企業のリモートワーカーやクリエイティブワーカー)が流入するからです。「なんとなく地元の活動に興味はあったけれど、参加できていなかった」という人が、リモートワークができ地域との接点もできる場所を求めて地域密着型のCo.ワーキングスーペースに足を運ぶでしょう。時間はかかるかもしれませんが、そこでの異業種交流が育まれたら、地元のフリーランスと大企業との協働が生まれたり、地域民同士での仕事を生み出したり、地域の課題解決に取り組むような活動が進む(進んで欲しい)と考えています。ロフトワーク の京都ブランチなどは、コロナ前から、このロコワーキングが実現しています。これが普及すれば、東京の一極集中型から脱却し、全国で自律分散型の地域経済、地域社会圏主義といったムーブメントが加速すると思います。首都圏では、逗子・葉山・鎌倉など湘南エリアあたりから始まりそうです。ほんの数十年前には、当たり前にあった地域で共に暮らし、仕事を融通し合い、活動をするという共存共栄の営みをロコワーキングが再現するのではないでしょうか。運営費も地域経済の中でエコシステムが生まれ利益分配できれば、持続可能な運営ができると思います。また、様々なロコワーキング拠点を全国津々浦々とびまわるスーパー・ノマド的なワークスタイルも生まれたら面白いですね。

CO-OPワーキング

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オフィス不要論に反して社内コワーキング床が増えるか(COOOP3)

企業内コワーキングの再考
・社内にコワーキングスペースを設置
・Co-Operationの為のワーキングスペース
・出社制限によるオフィスの縮小、賃料(固定費)の削減
・拡大収縮が可能な共用部/バッファとしてのワーキングスベース
・対外的ショールーミングとしての活用・コーポレートブランドの体現
・社員の意識定着・社員教育・研修マインドセットのインストール
・会社の「儀式」を行う場として活用

企業内にコワーキングスペースを開設することは、昨今のある種のブームでしたが、ますます必要不可欠な経営活動になるでしょう。コロナ禍によって、企業体の在り方が見直され、共同体としての会社組織をどのように運営、オペレーションしていくべきか...経営陣は四苦八苦したと思います。このままリモートを推進すべきか、オフィスに社員を戻すべきか現在進行形で議論が続いています。ベンチャー企業は、早々にオフィスの移転や縮小に動きました。中にはオフィスを解約して登記ができるコワーキングに変更したベンチャーもいます。大企業もリモートワークに投資をし、固定費としてのオフィス賃料を下げて経費削減に動いている企業もあるようです。しかし、オフィスに社員の大半を戻す可能性も大いにあるので、企業がオフィス内にフリーアドレスまたは社内コワーキングスペースを開設するケースも増えると私は予測しています。(これまで多数の企業内コワーキングをつくってきた身として増えてほしいと淡い期待も抱いています。)

Withコロナ時期に企業内コワーキングを導入するメリットは、出社人数が変動する中で、社員の仕事場を柔軟に拡大または縮小できる調整弁の役割を担えること。例えば3フロア150名で使っていたオフィスを1フロアを35名定員のコワーケング、もう一つを1フロア30-40名定員のCo.ワーキングに改修し、1フロアを解約しても社員の出社率が1日4〜5割以下であれば、社員総数が150名のままで運営が可能です。自社ビルであれば、三密回避にもコワーキングの新設は使えます。ちなみに、あえてオフィス内のCo.ワーキングでやる、オンラインでは成立しづらい事を挙げるとしたら、特定多数でのブレストとラップアップ。これは、現代のテクノロジーにあっては、オフラインに軍配があると実感しています。

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社内Co.ワーキングに多数の社員が出入りするならば、そこは立派な社内コミュニケーション、インナー・ブランディングの場となり、空間は会社のビジョンやポリシーの共有から日常的な社内情報共有までを担う、さらには会社の風土や空気をも表現するなど、多くの用途機能を担えます。その場を来客向けにも開けば、対外的なショールーミング、営業活動にも寄与するPR(パブリック・リレーション)の場にもなるでしょう。

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ロフトワークのコワーキングスペースは会社の展覧会も開く、コーポレート・ブランディングを体現する場。

また、デスクワークの大半がリモート(社外)でも可能になるならば、あえて会社に集うのは、別の目的に中心が移るはず。先にあげた社内ブレストだけでなく、例えばリクルーティング活動、社員研修や教育、ランチや休憩での雑談といった日常茶飯事、メディテーション、入社式や歓送迎会、表彰式といったセレモニーを行う儀式の場など、「働く」だけではない、総じてCo-operation、共に働き共に会社生活を過ごす場としてのCO-OPワーキングが増えるのではないでしょうか。

Afterコロナのコワーキング

Go.ワーキング
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100BANCHのプロジェクト風景より ©︎100BANCH

Go.ワーキング
前提:Withコロナで経験したコワーキングのトレンドが進化
   Work From Anywhere / VUCA時代 / オンオフ・ハイブリッド
   コワーキングもTPOで選択できるワークスタイル。
・働く場所を選ぶのでなく、問題のある場所に出向いて働く
・どこのコワーキングで働くかより、どこで何をCo.ワークするか。
・ISSUE(問題)とPURPOSES(目的)で立ち上がる現場型Co.ワーキング
・問題を解決の為に問題のある現場へ出向いて立ち上げるポップアップ式
・プロジェクトベース(課題と解決の現場)で存在する
・プロジェクトの核心 / アイデア飛躍が必要な時のみ集まり
・解決したら or 解決の糸口さえみつかったら空間をたたんで撤収
・仮設性、即時性、即興性が求まれ、簡易でCAMP(野営)のような設え
・移動式のコワーキング・セットを積んだモビリティが爆誕

Withコロナでのコワーケング、LOCOワーキング、CO-OPワーキングを経験した私たちは、Afterコロナでどのように進化したコワーキングスペースを構築しているでしょうか。「Work From Anywhere」と言われるように、どこで働くかは瑣末な問題になっているでしょうか。Afterコロナでは働く環境はより柔軟に、オン・オフを巧みに使い分けながら、社会活動をしていく事になりそうです。コワーキングの形態もWithコロナで挙げた三つに留まらず、多種多様になるでしょう。VUCA時代と言われるように、これから先、また地球規模で新たな不測の事態に世界が翻弄される事件もあるかもしれません。それが無くとも私たちは様々な問題を解決してく必要がありそうです。Withコロナで再発見したことの一つとして、「問題解決には、問題の渦中で取り組む方がいい」という当たり前の気づきがありました。STAY HOMEにおける様々な問題解決は、STAY HOMEしながらの方が速やかに解決できたのです。(当然のことですが。)また別のあるプロジェクトの課題においては、オンラインのリモートワークで進めるよりも、課題の現場で取り組んだ方が創造性も生産性も大いに高まりました。改めて、どこでも働ける時代だからこそ、問題は問題が起きている現場へ皆で出向いて協働で解決した方が良いと感じました。地球温暖化問題について、「空調の効いた部屋の中」で議論するよりも、温暖化の影響に直面した場所で関係者が集まって取り組んだ方が明らかに解決に近くはずです。

そうであるならば「無目的なコワーキング、問題提起のないコワーキングは敬遠されるようになるのでは?」「どのようなコワーキング・スペースで働くのかよりも、どこで何についてCo.ワークするかが大事では?」と改めて思うようになりました。そこで思い浮かんだのが、ISSUE(問題)とPURPOUSES(目的)で立ち上げる現場型のCo.ワーキングです。どこでも働ける時代だからこその現場。問題を解決するために、問題のある場所に出向いて立ち上げるポップアップ式のCo.ワーキング=Go.ワーキングの登場です。例えば、海洋プラスチック問題について取り組むワプロジェクトチームは、現地の海辺にCo.ワーキングを立ち上げたらいい。農業の問題は農地で、医療現場の問題は病院でクリエイティブに解決する為にCo.ワーキングを立ち上げます。これまでは、Co.ワーキングスペースに問題を持ち込んで取り組んできましたが、それは「空調の効いた部屋の中」でした。これからは、問題に出向いてプロジェクト・ベース(課題と解決の現場)でコワーキング・スペースがつくられます。

ポップアップ式とは、オンライン・オフラインを巧みに使い分け、プロジェクトの核心に迫るとき、または解決アイデアの飛躍が必要な時のみ集まればいいGo.ワーキング空間。問題が解決すれば、または解決の糸口さえみつかったら空間をたたんで撤収します。ですから、空間の設えは軽やかで、仮設性、即時性、即興性が求められる。非常に簡易な立ち上げと撤収ができることからCAMP(野営)のような設えをイメージします。

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屋台村のようなコワーキング ©︎TAIYA

イラストのような移動式のコワーキング・セット一式を積んで全国の問題を解決しに出向くモビリティが爆誕するかもしれません。周辺機材も仮設現場のような仮囲い、軽いテーブルと椅子、布の間仕切り、テントやタープのような屋根などの軽やかなもの。電源はオフグリッド・エネルギーで大容量バッテリー搭載など想像は膨らみます。

Withコロナ/Afterコロナのコワーキングの実現へ

最後まで読んでくださり有難うございました。Withコロナ・Afterコロナのコワーキング・スペース、特にロコワーキングやCO-OPワーキングそしてGo.ワーキングには、これからのCo.ワーキングの未来があると考えています。一緒に未来のCo.ワーキングを実現してみたい方は、コンタクトくだされば、とても嬉しいです。

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