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救いの御子は 御母の胸に #9

Ⅱ  タクシー運転手〈1989Age.24 〉

 沖縄の北、東シナ海にその島はある。
 父は、その島のネセブという小さな村で大正三年に生まれ少年期を過ごした。
 少年期の終わりに家を飛び出し、行き先も分からない船に忍び込んで、行き着いた先は九州だった。
 反物売りの怪しい商人にくっついて九州を渡り歩き、また島に戻るというのを何回か繰り返し、最後にたどり着いたのが沖縄だつた。沖縄のあの独特の気候と底抜けに明るい人の良さに触れ、そこに棲むことを決めた。
 戦後は沖縄証券を創始したり、県初の公認会計士になったり、信用金庫を導入したり、横領にあったり、警察と対峙したり、いろいろあったらしいが、つぶさには知らない。ただ、若いころは周りから野人(やじん)と呼ばれていたことと、年をとってからはネセブに住む母親をとても大切にしていたことは、後に義母から聞いた。野人が生まれ育ち、親不孝し母親を困らせ、飛び出し、逃げ帰り、親孝行し母親を慈しんだその島は、奄美大島だ。


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