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茶道を学びたければ、とにかく水屋を学べ

 茶の湯をするのに最も大切な場所の一つが水屋。車で言えば、座席が茶室で、水屋がエンジン。水屋がなければ何も始まらない。
 よく有名な現代作家が「現代茶室」を作ったりするが、ほとんど水屋がない。座席だけ工夫を重ねても走らなければ車は意味を成さない。その車の特徴を最も発揮させるためのエンジンの改良にもう少し、目を向けてもよいのではなかろうか。

 水屋は、その茶室の持ち主の性格を最も見ることができ、茶事や茶会を円滑に進行させるための大切な場所だ。流派や亭主による違いはもちろんあるが、全般的にはどの流派も流れは一緒だ。
 できるだけ早く水屋の動きを身につけ、人を頼って、諸先輩の茶事・茶会本番の動きを水屋で眺めることができれば、自身を最も成長させる機会となり得る。茶の湯の稽古は、点前を100回するなら、たった1回の水屋を経験する方が役に立つ。ぜひ、お勧めする。

水屋の流れ

 私が経験した実際の茶会や稽古などの水屋の大まかな準備の流れを以下に記す。複数人で行うことを前提とする。

①水屋の水を出しっぱなしにする(水道管に古い水が残っている可能性があるため、5分以上流す)→湯を沸かす(可能な限り早く)→水瓶に水を入れる
①雨戸を開けて、空気を入れ替える
①庭掃除する→綺麗になったら一度打ち水→雑巾で葉の露、飛び石の窪みなどを拭く→スタート寸前で再び打ち水
②道具の箱を開け、取り出す。箱はしまう。
②畳拭きをする→毛氈敷く(コロコロでゴミとる)→椅子あるなら並べる
②灰形作る
③道具の準備をする(釜、水指、水次、茶碗の流れ)
③道具の準備をする(掛軸、花入、茶掃きなど)
④菓子つける
④炭入れ→釜掛け→点前準備
⑤本番スタート
※炭の火熾しは、茶会開始の時間に準ずる(基本的には早め)。


水屋を極める

 水屋を極めると、たくさんの茶会に裏方で参加することができる(もちろん、亭主の許可があってのことだが)。
 茶会のもうひとつの本番は、水屋で行われている。進行の裏側をつぶさに拝見できることはもちろん、茶会であればVIPのご挨拶の所作なども目の当たりできる。また、亭主に至っては、茶席から下がってきて息を整える場所でもあるため、石田三成ではないがその時の様子を見て抜群の茶を点てる訓練にもなる(ちなみにそのときは音を立てずに点てる)。客人の心を想うことも大切だが、亭主の心を想い、サポートする役割が水屋には求められる。
 また、どのような心持で亭主が亭主を行なっているかも見れる。もし将来、茶事・茶会を開きたいと思うのであれば、まずは水屋を学ぶことを勧める。その中で得た創意工夫、また改善点などは、きっと自身の「数寄」を高めることとなるだろう。

茶事の水屋番

 茶事の水屋番にまでなれれば、それ以上のことはない。あとは亭主をやるだけだ。
 水屋番は亭主と客人の会話を聞くことができる貴重な存在となる。つまりは『山上宗二記』にも記される「数寄雑談(茶席での会話)」を大いに学ぶことができる。茶席での会話は非常に洗練されたものが求められるため、実際にどんな会話をするかは、教本を眺めるよりも、茶事の水屋となって、聞く他ない。 
 また、水屋は亭主以上に、亭主と客人の関係性を把握する存在となる。そのため、亭主に代わって、裏側から客人をもてなす。酒や料理のスピード、点前の支度、庭番との連携など、茶席に出る亭主が行えないことを一手に引き受け、指示を出すこともある。
 基本的には、水屋、庭番は一切の言葉を発さず、流れの中にある約束の時に到れば、互いに頷いて、次の行動に移る。無在、無言、無音が前提となる。ここまでなれたら、亭主に支える滅私奉公の喜びを知る。これは、実際の社会で大いに役立つ精神鍛錬だ。

水屋の様式

 水屋の様式も様々だ。これについてはまた別の章で詳細にお話ししたいが、流儀、亭主、双方の工夫が水屋の様式に詰まっている。また、亭主の身体の延長にあるのが茶室であり、同時に水屋だ。慣れれば、目を瞑っていても、何がどこにあるかがわかるようになる。そうすると、闇の中で行う「夜咄」「夜込」といった茶事が可能となる。
 水屋の様式を知ることで、自身の身体の様式を知る。

 
ちなみに、あまりに素晴らしい茶事・茶会だと、客人が「水屋所望」をすることがある。そのため、終わった時には、すべて綺麗に片付けた状態であることが望ましい。

客人を招く楽しみを知る

 時代は変わった。昨今は、稽古料を払えば一定のサービスを受けられるお客様的な弟子が増えてしまったためか、準備も片付けも教授者が行うケースが多いという。水屋を学ばねば、茶事や茶会ができないわけで、そのとき水屋にお客様弟子は不要だ。そのような稽古場は、結果的に弟子の成長を妨げている。

 一方、だからといって、参加料をとって運営される茶会の水屋番をタダ働きさせる「茶道界の慣例」も正直おかしい。参加料を取らないチャリティー茶会ならいざ知らず、参加料をとって人件費を取るのは、もはや現代ではハラスメントに他ならない。少額でも良いので、交通費や昼ごはん代くらいは出してあげて欲しい。さらに言えば、手伝う水屋番から参加費や御祝いを強制的に徴収する亭主もいると言う。言語道断である。

 勉強させて頂く弟子側も、手伝ってもらう亭主側も、互いの気持ちが通じなければ、水屋はうまく働かない。そうなれば、茶事や茶会、稽古は円滑に進行しない。それは茶席にいる客人にきっと伝わっているはずだ。

 水屋を知れば、客人を招く楽しみを知ることができる。喫茶の醍醐味を水屋で感じられれば、それまで煩わしかった多くの約束事も、すとんと腑に落ちるだろう。
 ぜひとも、お勧めしたい。

武井 宗道

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