座右の書 アンドリュー・S・グローブ著「HIGH OUTPUT MANAGEMENT」

皆さんには、座右の書と呼べる本はあるだろうか。私にもいくつか候補になりそうな本があるが、当面はマネジメント手法に悩んでいる40手前で巡り合った本書、『HIGH OUTPUT MANAGEMENT』を座右の書としようと思っている。

本書はタイトルの通り、よりアウトプットを高めるためのマネージメント手法を世界に冠たる半導体メーカーであるIntelの中興の祖、グローブ氏が書き下ろした渾身の一冊である。

ここで皆さんに問いたい。マネージメントとは何のために行うのか。その答えは人によってまちまちかもしれない。組織に規律を持たせるため?間違いではなさそうだ。議論に白黒をつけたり、決断するため?それも重要な機能だろう。しかし、グローブ氏はよりシンプルに答える。テコ作用(レバレッジ)を活用して自分の部門のアウトプットを最大にすること。そのために自分の注意とエネルギーを振り向けるのがマネージャーの本務ということだ。一見当たり前に見えるが、マネージャー昇進時にこの大原則を意識しているかどうかでパフォーマンスに雲泥の差が生まれるだろう。迷った時はアウトプットの最大化につながるかどうかという大原則に立ち返る。それだけで正しい判断をできる確率がぐっと上がる。

本書にはマネジメントによってアウトプットを最大化するための手法がふんだんに書かれている。私が重要と感じた項目を記載するので、詳細が気になったらぜひ本書を読んでほしい。きっと大きな気付きがあるだろう。

①マネージャーのアウトプットはその監督下または影響下にある組織のアウトプットである。
②何をするか迷った時はレバレッジが最大化する活動に注力。
③生産性向上にはボトルネックを見極める。
④レポートは情報収集に役立つが、部下にレポートを書かせることは、言語化することで思考を整理し、深く考えさせるという効用を見逃せない。
⑤部下とのワン・オン・ワンミーティングを大事にする。そのミーティングは部下のためのものであり、部下がテーマを決め、話させる。この1時間程度のミーティングで、部下の1、2週間のアウトプットが向上するならば、そのレバレッジは大きい。
⑥全てのミーティングにおいて、目的、目標を明確にして臨む。
⑦人が仕事をしていないとき、その理由は単にできないのか、やろうとしないかのいずれかである。後者の場合はモチベーションを上げることが重要。
⑧部下に物事を教える責任は必ず上司が負わなければならないし、部下の授業料は組織の内外問わず、顧客が支払うべきものではない。
⑨唯一最良のリーダーシップ、マネジメントスタイルはなく、時々刻々変化する。
⑩人事考課はとても難しい。施策と業績にタイムラグのあることがよくある。また、高い評価は会社全体にこの良きマネージャーを見習うべきだということを全社に伝えることでもあることに留意が必要。
⑪考課は、相手のところまで降りていって率直に、相手の話をよく聞き、客観的に見ながら、伝えなければならない。相手が理解できているかどうかはことばや表情などの反応で確かめる。
⑫効果の目的は、部下の業績を向上させること。一度に受け止められる情報量には限りがあることを認識しておかなければならない。
⑬問題社員は完璧に説得するのではなく、行動の改善を約束させられれば十分だ。その際には「あなたではなく、私がしてほしいのだ」と毅然と伝えることもテクニックの一つ。
⑭考課はつい業績の悪い社員の底上げに注力しがちだが、エース社員により注力する方がレバレッジ効果が高い。
⑮優秀な社員が退職しようとした時には、他の仕事を放り投げてでも慰留しなければならない。彼は優秀だから転職できるのであり、重要な財産である。また、その背後には何倍、何十倍もの優秀な人材が見ている。何をおいても残ってほしいということを示すのは、それらの財産を会社に残すことにつながる。

本書はマネージメントスタイルの確立に悩む全ての人に読んでもらいたい一冊。即効性のあるノウハウ本とは一線を画す骨太な内容だからこそ、普遍的で長く通用すると思われる。会社など所詮は人間の集合体。リソースを活かすも殺すも社員次第。そのためにマネージャーの果たすべき役割はとても大きい。本書の考え方を自分のものに消化したマネージャーが増えれば、我が国の将来はきっと明るい。

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