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みんな違って みんないい個性

障害者施設で世話人として週に一度夜勤業務を始めて半年が過ぎました。
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16時前にケアホーム(施設)に入り、それぞれ異なる作業所から帰ってくる利用者8人を出迎える。
マスク回収、検温、作業所へ「帰ったよコール」などのあと、荷物を部屋に置いてリビングに降りてきて話をしたがっている人がいると耳を傾け、一緒に筋トレしたり、買い物に同行したり、細かい作業が苦手な人の手助けをしながら、他の職員が書いた一週間のレポートに目を通し、体調の異変やトラブルの有無(突拍子もない事態が発生することがなにかと多い)、特記事項、家族からの要望事項などを確認する。
夕食の前後にお風呂の用意と掃除、翌朝の準備、風呂上がりに薬を塗ってあげたり、21時と22時半の見回りの合間に洗濯。簡易ベッドに寝袋を敷いて23時頃に就寝、というのが入所した日のルーティン。
翌朝は遅くても5:30には起き、部屋を温め、朝食の準備をする。

山、お遍路、仕事に大活躍の寝袋

八人八色
いずれの利用者も重度ではないが、読み書きや計算が苦手な限局性学習障害(Lerning Disability : LD)、こだわりが過剰に強く、コミュニケーションが苦手な自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder/Disability : ASD)、多動症、ダウン症など、様々な障害と性癖がある8人の共同生活。

朝、目覚めるとしばらく奇声を発し続ける子。ニコニコニヤニヤ、時に不気味な笑みを浮かべて漫画の台詞を言い続ける子。言ったことを理解していないのに元気よく「ハイ!判りました」と返事する子。電源を消しコンセントを抜いて回る子。すぐ不機嫌になって睨んでくる子。普通に話せるが文字、特に漢字の読み書きが苦手な子。キレイ好きで掃除が大好きな子。褒めてもらおうと無邪気にアピールする子。
自活を目指して施設に滞在するのは30代から50代なので、全員子供ではないが、所長初め職員全員が利用者を「この子」「この子たち」と呼んでいる。
年齢は大人だが、確かにどこか頼りない感じや幼さがあり、情緒のコントロールが苦手、恥ずかしがり、注意力が欠如、話し方が極端に子供っぽい人もいる。

「頼んだぞ!」
8人の中で、TPOに合わない言葉遣いを頻繁にしてしまう者が一人いる。
自分がやりたいことがある時、例えば朝ご飯を食べたいときは「ご飯やな」とだけ言い、ゴミを捨ててほしいときは「ここにゴミを置いたよ」とか「はい、ゴミ」とだけ言う。
外出の際は必ず世話人が玄関の鍵を開けて外に送り出す(自分で鍵を回して勝手に外出してはいけない)のがルールで、殆んどの人が「出掛けます」「鍵を開けてもらえますか」と声を掛けてくれるのだが、彼は相手に何かを依頼する、のではなく、「外に行こか」「今から行くな」など、あくまで自分が主体で発言する。
そして、何かをお願するとき「お願いします」ではなく「頼んだぞ!」と、まるで上司が部下に言うような口調になることも多い。
決して悪気があるわけではなく、横柄でもなく淡々と言うので、なんだか可愛げがあり、ついその口調を真似て「頼んだぞ!」と私も釣られてつい言ってしまいそうになるのだが、「ちゃんとこの子たちを指導してやらんといかん」と所長に言われているので、何度か「頼んだぞ、はちょっとおかしいよね」とか「頼んだぞ、じゃなくて、お願いします、やね」と注意をしたのだが、何度言っても、どんな状況でも彼の「頼んだぞ」は変わらない。
「あれ?頼んだぞ!じゃなくてなんて言うんやったっけ?」と言うと、たまに「頼みましたね!」と、変化球を投げてくる。
う〜ん、それもちょっと違うねんけどなぁ、と思いつつも少し柔らかい言葉遣いが出来たことを成長と受け止めて喜ぶ。だが基本的には「頼んだぞ」が圧倒的に多い。

彼だけでなく、彼らは普段の生活に於いて「実行機能」や「場面判断」が苦手だが、決して人間として健常者よりも劣っている訳ではない、ということも、この仕事を始めてハッキリと分かるようになった。

未熟で幼稚な健常者の大人の方が質が悪い
健常者と言われる人、いわゆる “立派な大人” が、礼儀知らずで失礼な言動が多かったり、ヒステリックで周囲に怒りをぶち撒ける、偉くもないの偉そうにして人を見下す、自分勝手な振る舞いで周囲に迷惑を掛ける、平気で人が傷付くことを言ったりしたりしても、それに気付いていない未熟で幼稚な質の悪い大人はものすごく多い。
今、こうして書いている間だけでもかつての上司や同僚、何人かの顔が浮かぶし、自分の家族・親族にもそのような人がいる。
勿論、かく言う自分も弱点欠点だらけで偉そうな事は言えないし、そもそも完璧な人間など存在しないので、半年の経験だけで健常者が障害者と接するときはこのように接するべきだ、ということを述べたい訳でもない。

ただ、健常者で(この「健常者」という単語も、そうでない者とを差別する言葉のように思えて少し抵抗を感じるのだが) ”立派な大人やのに” とか”ええ大人のくせして” とつい言いたくなるような、一緒にいて気分が悪くなるくらい気苦労を掛ける人、つまり「居心地が悪い健常者」に比べると、入所している8人はむしろ、一緒にいて気分を害することはなく、普段は「障害」を感じずに生活し、それぞれ自分の世界が守られている限り、とても穏やかに過ごしているので、「居心地が良い障害者」といる方が、自分の時間と心も豊かなものになる、ということを、以前よりもよく感じるようになった。
「障害」「障害者」というと、どうしてもネガティブ、マイナスのニュアンスが付いて回るが、それは人を分類し、心のなかに垣根を作ってしまっている「健常者」側が作った言葉であるということ、そして、人と対峙する際は相手が健常者、障害者に関係なく、偏見や差別意識を持たず、上下や優劣をつけず、できる限り同じ目線や立場に立って、大らかな気持ちで接する方が良い、という当り前のことも、この仕事に従事するようになって、強く思うようになった。

障害も個性のひとつ
「障害」というのはdisability(障害者の意の他、不自由・不能など)というよりも、むしろ「個性」personality、として捉えると、差別的な態度や上から目線にならずにすみ、その「個性を尊重する気風」が多様性を受け入れる豊かな社会を創り、差別や偏見だけでなく、社会でなくならない暴言や暴力、さらにその先にある戦争のない平和な社会・世界を築く基盤ではないかと思っている。

予算が厳しい朝食:
トースト、ポテトサラダ、バナナ
食べる時間は人それぞれ。
簡単な調理もその都度焼くと手間も増える。
週末や祝日は昼食も作る。
パスタや焼きそばなど、麺類になることが多い昼食

私の下手な料理を文句も言わず食べてくれるだけでなく、
「おいしい」と言ってくる子もいて、一人が「美味しい」というと他にも「おいしいよ~」「うん、すっごく美味しい」と笑顔で連呼してくれる子もいる。
いつも申し訳ない気持ちの方が強くて(ゴメンね~、次はもうちょっと上手に手早く作るねぇ)と心の中でつぶやくのだが、お世辞でも「美味しい」と言ってもらえるとホッとするし、なんだかすごく、嬉しいのである。

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今日から4月。新しい年度が始まります。
個性豊かな8人と共に、私も少しでも成長できたらと思っています。


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