やさしさ

26歳 気まぐれで文章を書きます

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記事一覧

パラード

 去年の秋頃の話です。    下北沢のはずれにある小さなレコード屋さんで、1本のVHSテープと出会いました。ただでさえ狭い店内の、その中でもいちばん目立たないような…

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2年前
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テン・イヤーズ・アフター

   何年前のことだったか、いつかの春の日に鎌倉まで出掛け、海岸を歩いたことがあります。  正午をすこし過ぎた頃の江ノ島電鉄はやたらにひとが多くて、それなのに怖…

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2年前
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みずいろ

 物心ついたときからずっと、みずいろがすきです。23歳になった今でも、家具から細かな生活用品まで、気がつけばパステルの青色をしたものばかり選んでしまいます。 …

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2年前
2

共形写像

 丘陵の上からは海が遠くまで見渡せた。生前の彼女の願い通りに、遺骨はこの丘の共同墓地に埋められる運びになった。  見下ろすと、嘗て海沿いを走った鉄道は廃線になり…

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2年前
2

続きのない夢のはなし

 夢のなかで、憂鬱は姿形をもって眼前に現れた。某RPGに出てくるスライムみたいな、パッと見では害があるように思えない感じのフォルムでふわふわしている。  こいつの…

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2年前
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転がる犬、君に朝は降る?

 昼過ぎに起きて、窓を開けてぼけーっとしていたらふと昔のことが頭を過った。どこかのライブハウスでみんながお酒を片手に語らっていた風景、そしてそこに集まっていたひ…

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2年前
5

とうめい

 公園の砂場に散らばっている透明の粒をあつめたことがありますか?あれはガラスのかけらではなく石英という鉱物なのだと、つい最近になって知りました。      まだ…

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3年前
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パラード

 去年の秋頃の話です。
 

 下北沢のはずれにある小さなレコード屋さんで、1本のVHSテープと出会いました。ただでさえ狭い店内の、その中でもいちばん目立たないような隅っこのスペースに、それはひっそりと並んでいました。

 

 陽に灼けて色の褪せきった外箱の背表紙に刻まれた「パラード」というタイトルと、表側に描かれた淡い色調のイラストが、どうしてか気になって仕方なくて。耳慣れない片仮名4文字

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テン・イヤーズ・アフター

 

 何年前のことだったか、いつかの春の日に鎌倉まで出掛け、海岸を歩いたことがあります。

 正午をすこし過ぎた頃の江ノ島電鉄はやたらにひとが多くて、それなのに怖いくらいにおだやかで。待ち合わせた駅で電車を降りると、薄手のコートを脱いでも歩けるくらいにあたたかく陽が照っていました。
 程なくして、海を見に行こう、とぼくを誘ったそのひとは現れました。俯きがちな横顔が春の風に吹かれると、まるで絵画の

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みずいろ

 物心ついたときからずっと、みずいろがすきです。23歳になった今でも、家具から細かな生活用品まで、気がつけばパステルの青色をしたものばかり選んでしまいます。



  みずいろのランドセルがほしかったけれど、おさがりの紺色の無難なやつで通学した小学生の頃。入学式の写真を見返すと、心なしかムスッとした表情のぼくが写っているのはそのせいかもしれません。淡い青のそれを背負って歩く同級生が羨ましく思え

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共形写像

 丘陵の上からは海が遠くまで見渡せた。生前の彼女の願い通りに、遺骨はこの丘の共同墓地に埋められる運びになった。

 見下ろすと、嘗て海沿いを走った鉄道は廃線になり、錆びて朽ちたレールが水と陸を隔てている。確かにここにあったはずの賑やかさが、今はもうない。1年ごとにこの街を訪れるたび、辺りが少しずつ寂れていくのがわかった。

 線香の煙が薄曇りの空へ消えていく。

 この歳になるともう取り立てて話す

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続きのない夢のはなし

 夢のなかで、憂鬱は姿形をもって眼前に現れた。某RPGに出てくるスライムみたいな、パッと見では害があるように思えない感じのフォルムでふわふわしている。

 こいつのせいで毎日眠れないしバッド入っちゃうし、もうたまったもんじゃねーくたばれや、とえらく造りの雑な(しょうがない、夢だし)鈍器を振り翳すとそいつはビビって泣き始めた。なんだかかわいそうだしおまけに結構かわいい見てくれをしているので、仕方なく

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転がる犬、君に朝は降る?

 昼過ぎに起きて、窓を開けてぼけーっとしていたらふと昔のことが頭を過った。どこかのライブハウスでみんながお酒を片手に語らっていた風景、そしてそこに集まっていたひとたちのこと。1年前や2年前の夏ってどうしていたっけ?とか、そんな他愛もないことを考えながら、メンソールの煙草を2本吸った。

 それから思い返した、大切なこと。

 髪の毛がそれなりに伸びて、パーマもかけたらなんだか大きな犬みたいな見てく

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とうめい

 公園の砂場に散らばっている透明の粒をあつめたことがありますか?あれはガラスのかけらではなく石英という鉱物なのだと、つい最近になって知りました。

 
 
 まだ小学校の低学年のころ、補助輪を外したばかりの自転車で近所の公園に通っては、熱心にそのきらきらを拾い蒐めていたことがあります。幼い子供の自分にとってそれはまるで宝石のようで、来る日もくる日も、母からもらったジャムの空き瓶にかけらを詰めて、

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