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釣り帰りの友

鮎くれてよらで過ぎ行く夜半の門 与謝蕪村(1716年~1784年)
 季語【鮎】- 夏
あゆくれて よらですぎゆく よはのもん

与謝蕪村は江戸中期の俳人であり、そして画家でもあります。だからでしょうか、彼の句はいつもその情景が絵画のように目に浮ぶものが多い気がします。

夜半というのはそこそこ遅い時間です。そのような時間に誰かが門を叩いたと思ったら、どうやら釣りからの帰りらしい友人が。
こんな時間に訪ねてくるのですから、それなりに親しい友人だと思われます。けれども親しい間柄にも関わらず、その友人は、鮎を数匹蕪村に手渡すだけで、蕪村の家には寄らずに帰ってゆきます。釣ったばかりの新鮮な鮎をただ喜んで貰いたいという、その気持ちだけで訪ねたのでしょう。

蕪村の方も、驚きと喜び、そして急なこともあってとっさに家に招き入れる事ができなかったことを申し訳なく思う気持ちが入り混じりつつも、追いかけて引き留めるでもなく、帰ってゆく友人を見送ります。

一見そっけないように見える関係も親しさゆえ。
そして親しいからこそ夜半に訪ねてでも友人に渡したい、夏の訪れを告げる香り高く美味しい旬の鮎。

そう、鮎は夏の川魚の代表ともいえる魚です。
(……といいつつ、某DASH番組などでご存知の方もいらっしゃると思いますが、実は鮎はその一生の半分を海で暮らしています。その話はまた別の時に)
きれいな水にしか生息せず、水底の苔の香べて育ち、独特の爽やかな香りを放つことから「香魚」とも呼ばれます。

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この記事を書いているのはまだ冬。川魚釣りがお好きな方の中には、夏の鮎釣り解禁を待ち遠しく思っている方も多いと思います。
今年はもしもたくさん釣れた時にはこの蕪村の友人のように親しい人にお裾分けされてみてはいかがでしょうか。たとえ一匹二匹でも、きっととても喜んでもらえると思いますよ。

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