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コンサルが藤田氏vsZOZOに思う非正規雇用のこと

藤田氏とZOZOTOWNの戦いーー。

税金問題から執拗に田端氏に絡んでいた藤田氏だったが、第3ラウンド(いや第4ラウンド?)では非正規雇用問題に焦点があてられた。

彼らの議論の中身について論じても仕方がない。いや、重箱の隅をつつくような議論にうんざりしたと言ったほうがいいか。

だから今回は、元業務コンサルとしての、非正規雇用に深くかかわった身としての経験を共有したいと思う。

生々しい話も多い。

だからこそ、何かを感じ取っていただければ幸いだ。

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◆BPRの現場から

先に断っておくが、私はどちらの立場につくつもりもない。ZOZOTOWNの業態として非正規雇用の割合が大きくなるのは想像がつく。一方で今ノリに乗るZOZOTOWNをターゲットとした藤田氏の戦略も理解できる。

更に言えば(これが藤田氏の論点なのだが)日本における非正規雇用は、法整備に大きな歪みを抱えている。この辺りは賢い読者の皆さんはご存知だろう。ご存知ない方は検索して調べてほしい。企業活動に携わる全ての人が理解しておくべきことだ。

が、冒頭述べた通り、今回は一般論を話すつもりはない。

それ以上に伝えたいことがある。


「非正規雇用」

こう聞いて皆さんはどんなイメージを持つだろうか? 自分自身が非正規雇用という方も多くいるだろう。一方で、氷河期を抜けたあとに就職した方々には「非正規の奴はさぼり」「能力ないやつ」「欠陥品」という印象を持つ方もいる。

正社員にも能力のないやつなど山のようにいるのだが、、、こと「非正規雇用」についてはネガティブなイメージがついているのではないか。


私はコンサルタントとして、業務改善・改革にも携わっていた時期がある。いわゆるBPR(Business process reengineering)というやつだ。その中で多くのコールセンターや派遣センター、いわゆる"現場"に入らせていただき、非正規雇用の実態を目の当たりにした。そして私の最終提案は恐らく彼らの人生に深く影響を与えた。

具体的な経験を、共有しよう。

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◆500円の重み

「わかってください、500円は彼らにとって大金なんです」

その言葉の意味を理解するのに、
私は暫し時間を要した。

とあるコールセンターに入った時のことだ。いつもは嫌われ役のコンサルタントでも、業務内容と相性によっては妙に現場と仲良くなる時がある。この案件がまさにそうだった。

軽い気持ちでセンター長に申し出たのだ。

案件終了前に一度懇親会をしませんか? 負担のない形で、、、そうですね、ご家庭がある方も多いから500円ずつ出し合って1時間程度の談話会などどうですか?


丁重に断るセンター長を見て、あぁ、出過ぎた真似をしたなと思った。所詮は外部者なんだ。これ以上踏み込むのは失礼だったな、と。500円の説明は言い訳だと思った。


休憩スペースにいた時のことだ。センター内でも優秀な、トラブル対応をしている女性たちが休憩していた。

「幼稚園の写真買う?」

「でも800円だよ、きついって」

「うち、夜のバイトもう一件始めたんよ。ランドセル買ってあげたくて」

聞こえてくる生々しい会話に、自分の浅はかさを知る。

彼女たちの労働は朝10時から5時までだ。シフトもあるので融通がきく。しかし、内容は決して単純ではない。来年も働けるのか保障はなく、しかし責任は重い。有名大学を出てデータ処理に四苦八苦している部下たちを思い浮かべる。

一体、何が違うのだろうか。


最終日、ビルを出ようとする私にオペレーター達が近寄ってきた。

「ちょっとしたものですが」と渡されたのは地元のお土産だった。たぶん、2000円弱か。みんなでお金を出し合い買ってくれたのだろう。
「コンサルタントなんて人生で初めて会いました」
「勉強になりました」

深々とお辞儀をしてくれた。

私はどんな顔で受け取ったのだろうか。
彼らの笑顔だけが記憶に残っている。
どんな思いで買ってくれたのだろうか。
何一つ、彼らの人生に役立つことなどなかったはずなのに。

帰りの飛行機で、ふと涙が出そうになる。

なんか泣くのもおかしいよな。
そう思い外を眺めた。

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◆業務改革の成功

この時の内容は
・センター拡大に向けた業務の再構築
だった。

だから堪えられたんだと思う。

殆どの業務改革は、改革という名のもと社員を切る。そしてその対象の殆どは派遣社員だ。自社の業務フローすら理解せずコンサルタントに改革案を丸投げする正社員たちは、決して対象に含まれない。

彼らが何か悪いことをしたのだろうか?


初めてのBPR案件はコストカットだった。

自分の改革案が通り、見事に派遣社員が切られた。そう聞いた時、ぼんやりとした違和感に包まれた。

定宿にしていたホテルに戻る。
いつも指定する部屋は、明るい木材に白い壁紙を合わせた和モダンの内装。相変わらず綺麗にベッドメイキングされている。広々とした部屋にはリクライニングチェアーもあり仕事に最適だ。壁にはその土地の伝統文化をなぞらえた絵が飾られている。

吐き気がした。

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◆零れ落ちる機会

一体何が違うのか?

なぜ彼らの存在は軽いのか?

誰にでもできる仕事、だからか?

じゃあ聞くけど、君の仕事はどうなんだ?


疑問の中で思い出す景色がある。

社会人なり立ての頃だろうか。同じフロアの男性社員が、パワポの図形を反転させる方法がわからず四苦八苦していた。「30分かかったよ」と汗をふく彼の横で、軽やかに仕事をこなす社員が二人いた。

派遣社員だった。

クライアントには会わないが社内の雑務の全てを担う。残業は決してしないがその作業スピードは目を見張るものがあった。みんなが彼らの処理能力に依存していた。

彼らの契約は、更新されなかった。

いわゆる3年ルールだ。みんなが「困る」と引き留めたが、無力だった。パワポの図形を反転させられない男性社員は無事に定年退職し再雇用された。

あの時、彼らは何を思ったのだろうか。

その派遣社員たちはいわゆる「ロスジェネ」世代だった。派遣から社会に出て、正社員になるタイミングを完全に逃した。そこに何かの「過ち」があったとは思えない。

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◆そこにある溝

戦略コンサルに移るまでの間、多くの現場を見てきた。そこには必ず、多くの非正規社員がいた。

彼らは不満をめったに口にしない。

それでも、深く入り込めば見えてくる。
彼らの諦めが、伝わってくる。

どんなに頑張っても、業務を工夫しても、何も評価されないんでしょ。一度派遣をしたら、もう正社員で雇ってもらえない。雇ってもらっても、きっと残業だらけの無茶苦茶な会社だよ。

それなら、もうここでいいんだ。


雇用問題を語ると必ず出てくる思考がある。

「実力主義」

結局、実力がないから非正規なんでしょ。実力があったら抜け出せてるよ。誰でもできる仕事やってるから賃金が上がらないんだよーー。

日本で実力主義を語る人たちのうち、本当に実力主義になった時に生き延びられる人材がどれだけいるか。

残念ながら、殆どいない。

あなたがのうのうと実力主義を語り努力を自慢できるのは、ただの「ラッキー」だ。グローバルな競争に飲み込まれたとき、真っ先に切られるのはあなたかもしれない。その時、文句を言わずにいられるか? 家族がいるんだ!と叫ばずにいられるのか? こんなに貢献してきたのに、と過去の栄光に縋らずにいられるか?

「いいや、それでも這い上がれる」そう信じるなら信じればいい。そうやって虚勢を張った人々が精神のバランスを崩し、立ち上がれなくなった姿を嫌というほど見てきた。


非正規社員とあなたの間にある溝、

それは、ごく僅かなものだ。

誰だっていつなんどき「あちら側」に行くかわからない。なのに、「こちら側」にくるのはどうしてこんなに難しいんだよ。


そして溝を渡った時、初めて気が付くんだろう。

彼らと自分に、何の違いもないことに。


Twitter: @soremajide



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