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船乗りの救世主! 16世紀の海賊が作った薬酒「ドラケ(draque)」を再現

突然ですが、私はお酒が好きです。特に職業柄ハーブを使ったリキュールなどが大好きです。

そして、お酒にまつわる歴史を探求するのは、私にとってお酒のおいしさを追求するうえで欠かせないことの1つでもあります。

今回は、仕事の資料づくりの関係で目にした「海賊が作った薬酒」の言葉に興味をひかれたので調べてみることにしました。

その中で、これは似たような物なら再現できるのでは?と思い立ち、作ってみたのが「海賊の薬酒ドラケ」です。

そもそも海賊の薬酒「ドラケ」とは?

モヒート

「モヒート」というカクテル。

飲んだことがある。飲んだことはないけど名前は知っている。という人は多いのではないでしょうか?

イギリスで、最古のカクテルとしても知られている「海賊の薬酒ドラケ」。このドラケからモヒートは派生したといわれています。

再現する前に、まずは「海賊の薬酒ドラケ」にまつわる歴史をひもといてみたいと思います。

□ ドラケを作った人は誰?

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                    < Wikipedia引用 >


イギリスの海軍提督であり、イギリスの女王エリザベス1世公認の海賊だった「サー・フランシス・ドレーク」

スペインの無敵艦隊を破り、英雄となった人物です。

エル・ドラケとも呼ばれている「海賊の薬酒ドラケ」は、英雄フランシスの悩みを解消するために作られたといわれています。

□ ドラケはなぜ作られた?英雄の悩みとは?

英雄フランシスの悩み。それは、ドラケが作られた時代、船上の「水事情」と「食事事情」を考えると見えてくるものがあります。

まずは「水事情」。当時は、現代と違い船上に真水を準備しておくのは難しい時代です。用意しておいても数日もすれば腐ってしまいます。そこで活躍したのがお酒。

船上にはアルコール度数の高い、腐りにくいお酒が準備されていました。

そして「食事事情」。海の上で新鮮な野菜を食べることはほぼ不可能でした。そのため、ビタミンC不足で壊血病が起こり、船員たちは次々に命を落とすことになります。

船員がいなくては航海もできない、戦うこともできない。海軍将校であり、海賊である英雄フランシスにとって、解決しなければならない大きな問題であり、悩みだったことでしょう。

□ あるお酒との出会いが、問題解決の糸口に

そんな中、英雄フランシスが立ち寄ったキューバのハバナ。ここで問題解決の糸口となる「あるお酒」と出会います。

それは、さとうきびを原料とした「アグアルディエンテ」というお酒をベースに作られた ※1 チュチュワシという木の樹皮、ライム、ミント、さとうきびを混ぜた現地のお酒でした。

英雄フランシスは、チュチュワシを除いた他の材料でお酒を作り、船員たちに飲ませることを考え付きます。

船員たちに飲ませたところ、壊血病は克服。その後、多くの船乗りたちの命を救いました。

※チュチュワシ
関節炎や腰痛などに用いられていた南米産薬用植物

□ 進化したドラケ、そして世界中で愛されるカクテルへ!


キューバ発祥のカクテルとして知られる「モヒート」は、海賊の薬酒「ドラケ」から派生したのは有名な話。では、モヒートの前身とされる「ドラケ」をキューバに伝えたのは誰なのか?

それは、1586年英雄フランシスの部下、リチャード・ドレイクといわれています。

当時はドラケと同じように「アグアルディエンテ」が使われていました。ですが、19世紀には「アグアルディエンテ」が進化し、ホワイトラムが登場。

その後はラム酒を使った「モヒート」が人気を博し、世界中で愛されるようになりました。

「わがダイキリはフロリディータにて、わがモヒートはボデギータにて」

かの有名な文豪「ヘミングウェイ」のこの言葉。

彼は、モヒートを愛した人物として知られ、ハバナの旧市街地のバー「ラ・デボギータ・デル・メディオ」に通いこの言葉を残したといわれています。

海賊の薬酒「ドラケ」を飲んでみたい!

さて、世界中に知られる「モヒート」の前身。

16世紀の船乗りたちを壊血病から救った薬酒にして、イギリスの英雄の名を受け継いだ海賊の薬酒「ドラケ」は、一体どんな味だったのか!?

それなら、出来る範囲で作って飲んでみよう!と思い、再現してみました。

□ 準備する物

アグアルディエンテ

レジェンダリオ

「アグアルディエンテ」は、キューバやコロンビアの地酒。古式純正ラム酒(ラムの前身)とも呼ばれるさとうきびを原料とした蒸留酒です。

さとうきびのお酒と言えばラム酒ですが、ラム酒は複数回蒸留するのに対し「アグアルディエンテ」は単式蒸留の1回だけ蒸留したお酒です。コロンビアでは、アニスを加えたアニシードと呼ばれる「アグアルディエンテ」が人気だとか。

ですが、今回は16世紀のドラケを再現したい!少しでも近づけたい!ということで、日本で購入できるキューバの古式純正ラム酒である「レジェンダリオ9年ラム・アネホ」を準備してみました。

コロンビアの「アグアルディエンテ」のアルコール度数は25度~と低め、それに対して、レジェンダリオのアルコール度数は40度となかなかのもの。

ハーブ酒を造る際は40度以上の方が良いとも聞くので、これぐらいが丁度よいアルコ―ル度数なのかもしれません。

きび砂糖

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さとうきびを使ったまろやかな甘さを持ち、独特のコクが美味しい砂糖。うまみ成分を多く含む砂糖としても有名です。

また、カルシウムやカリウム、ミネラル成分を多く含むため体によいともいわれています。

ライム

ライム

わずかな苦味と爽やかな香り。そして酸味をもつライムは、香りづけや薬味として使用されることが多い柑橘です。ビタミンCが豊富に含まれているので、壊血病予防には最適ですね。

日本で流通しているライムはほとんどが輸入されているものになります。苦味の多い皮の内側の白い部分を取ろうとおもいましたが、当時そんな面倒くさいことしていたのか?と思い、そのまま切って漬け込んでみました。

ミント

ペパーミント

ミントの種類はこれといった決まりはないようですが、日本ではモヒートを作る際にスペアミントを使ってる人が多いようです。

とはいえ、薬効を考えるとペパーミントの方がスペアミントより強いというのは有名。今回は、薬効が強い方が良いかと思い、ペパーミントを使うことにしました。

当時がドライハーブを使っていたのか、フレッシュハーブを使って作られていたのかまでは調べられませんでした。ですので、美味しい方がいいなという個人的な好みでフレッシュペパーミントを使用。

ちなみに本場のキューバではペパーミントやスペアミントではなく「イエルバ・ブエナ」というハーブが使われているそうです。

「イエルバ・ブエナ」画像

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「イエルバ・ブエナ」は、キューバミント、モヒートミントとも呼ばれる中南米原産のハーブ。独特の風味を持ち、繁殖力も旺盛なミント

□ 勝手に考察

当時は、新鮮な状態でのミントやライムを長期保存していたとは考えにくい。

それならお酒に漬け込むことで劣化を防ごうと、樽などに全ての材料を入れていたのでは?

現在の薬酒、ハーブ剤型でいうところのチンキ剤のように作っていたのではないか?

そう考え、ハーブ酒やチンキ剤と同じ要領で作ってみました。

□ ドラケ再現・材料

材料

作り方は簡単!

煮沸消毒した保存瓶に、すべての材料を入れ3週間漬け込むだけです。3週間たったら濾して出来上がりです。

□ さっそく飲んでみた!

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まずはロックで飲んでみました。とにかく、アルコールが強い!でも、初めは甘く、コクのある濃厚な味が印象に残ります。後からミントの抜けるような爽やかさとライムの苦味が感じられる味でした。

次に水で薄めて飲むと、爽やかで甘みも丁度よく飲みやすい味に。

ただ、美味しすぎて飲みすぎ注意かもしれません。

まとめ

ドラケを作ろうと思ってから、色々リサーチを繰り返しました。そのたびに当時の生活様式や文化、国際情勢など、新たな歴史を発見。

「アグアルディアンテ」についても、調べてみなければキューバやコロンビアの地酒だと知ることはなかったと思います。

壊血病についても、より詳しく調べることはなかったでしょう。

そして何より当時の人たちがどのような味のお酒を飲んでいたのか、それに近い物を飲むことができたことは貴重な体験だったと思います。

□ おまけ

おまけ

最初は「アグアルディエンテ」を見つけられず、ラム酒で作ってみようと2種類のラム酒を購入していました。よい機会なので、ゴールデンラム酒(左)、ホワイトラム酒(右)の2種類も作ってみました。こちらはまだ完成していないので、味はまだ不明。ドラケよりはさっぱりしているのではないかと予測中です。




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