第2話 神様の国 <0412改>
車が寺院にしては派手な建物の横で、渋滞にはまる。
「随分派手な建物だね」僕が尋ねるとガネッシュが笑いながら「Templeですね。これは少し特別ね。」と言った。
「人がたくさん並んでるね。」
「誰かのお葬式ですね。」
「葬式か・・派手だね。」
インドの葬式では白い服を纏うのが基本だそうだが日本と真逆の色のせいか寺院を一層派手に見せる。
僕はインドについた初日に彼が連れて行ってくれたガンジス川のことを思い出した。洗濯をしている横で家族であろう人々が砂の様なものをまいていて、それが後から遺灰であると聞いて車を降りて吐いてしまったのだ。
ガネッシュは僕が少し潔癖気味であることからそのせいだと思った様だが、確かにそれも多少あるがそういう事とはまた少し違っていた。この国の、インド人の死に対する何かが僕の中の何かを掘り起こそうとする。そんな吐き気だった。
何だろうか。
のろのろと動く車の中でそんなことを考えていると子供が寄ってきて不安と笑顔が入り混じった顔で窓を叩く。見ると手に持った何かを指差していた。
「危ない・・こんな道路の真ん中で。」
「何か売りにきたんでしょう。気にしなくて大丈夫、キリがないです。」
「でも・・」
「この子たちの親はわかってて、売らせに来てるんですよ。」
そう聞いたら尚更、無視できない自分がいて何より事故にあってはと思い僕は窓を開けようとボタンに手を掛ける。ビジネスマンとしてクールでありたいと過ごしてきた僕だが、インドに来てからどこか熱い性分が顔を出してしまう。
窓を開けると砂埃で汚れているせいか茶色の小さな手を子供が笑顔で入れてきた。そしてもっている飾りを見せながらルピー、ルピーという。
その幼い手を見て不潔という感覚が自分を突き刺す。
老人を見たときと同じ様な感覚。
お金を渡したらこの子は親のところに持っていくのだろうか。
それで何か変わるのだろうか。
きっと何も変わらない。それでも何か変わって欲しい。神様なんか、宗教なんかよりきっと何かを変えてくれるだろう。
僕は自分勝手な願いをお金に託し綺麗なお札を選んで渡した。そして子供がくれようとしたものについてはいらないとジェスチャーをする。しかし子供には通じず、子供は大きな飾りをくれて行ってしまった。他の子供達も寄ってきたところで車が進み、子供達は離れていった。
「いらないのに・・象?」
自分の顔よりも少し大きい象の飾り物の足元にはネズミがいる。
お釈迦様の様な手の出し方をしているあたり何かの神様だろうか。
僕が子供にもらった飾りをどうしようか眺めているとガネッシュが「子供が作ったんでしょう。ガネーシャね、ビジネスの神様。家に置いとくといいですよ。」と笑った。
象が神様。
貧困もありながらどこか明るいインドを表しているかの様だ。
一説によるとガネーシャの父親のシヴァという神様が息子の首を誤って切り落としてしまい、代わりに象の頭を付けたそうだ。日本の神話も散々なものがあるがヒンドゥー教の神話もだいぶ激しい。
「私の名前もガネーシャから付けられたものね。私の神様ですね。」
「神様から付けたの?」
「そうですよー。」
インドでは神様に由来した名前をよくつけるらしい。僕だったら神様の名前なんてつけられたら色々な意味で苦しんだだろう。
「日本では考えられないな。」
「そうですか?日本も神様の国でしょう?」
「神様ねえ。」僕は笑ってしまった。
確かに昔は神の国だったかもしれないが今時の日本にそんなものは存在しないのではないだろうか。
神なんぞ・・・。
クリスマスにはキリスト、正月には神社仏閣、なんでもござれな日本に今更そんなもの。
「違うんですか?」
「日本は神社とお寺は確かにあるけどね。」
神様?
神様の国か・・。
遺灰をガンジス川に流すほど死を受け入れ、神様も身近なインド。
崇拝しているからこそ身近なのか。
よく見ると彼の運転席の前にはガネーシャの絵が貼ってあった。
「縁起がいいですね。ビジネス進むといいですね。」
僕が貰った飾りを見ながら微笑むガネッシュを横目に僕は「・・・時間かかりそうな気がしてるけどね。」と呟き、車の外を見ながら一昨日のことを思い出していた。
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