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パイロットの学歴の話

たまにパイロットになるにはいい大学を出ていないといけないと言う人がいますね、参考までに私の学歴を紹介しましょう。

航学がだめで工学に

私は高校3年生のときに航空自衛隊の航空学生を受験し、身体検査で落っことされました。おそらく視力が原因だったのでしょう。現在は緩和されていますが、当時は裸眼で遠距離視力が1.0ないとだめでした。

戦闘機パイロットになれないことがわかって、大学受験をすることになりましたが、戦闘機パイロットにあらずんば人にあらず、と極端に考えていた私は、勉強に身が入らず、マリオカートばかりやっていたので、緑甲羅やバナナを当てる技術ばかり上手くなって、第3志望くらいの大学にかろうじて入りました。

こんな腑抜けた気持ちで入ったので、勉強に身が入るべくもなく大学を中退しました。しばらくプラプラしていましたが、やりたいことなんかないけれど、英語くらいしゃべれるようにならなきゃだめだろうと、語学の専門学校に通うことを決めました。そこでTOEICの点数を上げることに躍起になり、最終的に630点から900点まで上げました。今だったら、TOEICよりIELTSやっとけ!と思うのですが、英語への苦手意識が払拭できたのがよかったと思います。

工学部中退の専門学校卒となり、就職したのは工学系のメーカーでした。居並ぶ同期はみんな工学部卒。関西の有名な大学で大学院まで卒業した奴もいました。(彼はのちに三菱重工に転職し、MRJ開発に携わっているとかいないとか、、)なぜか私だけ「文系枠」でしたが、「工学的知識をかじった英語がしゃべれるやつ」はいませんでした。希少価値とは、組み合わせにより生まれるのだとこのとき実感しました。

時代はインターネットバブル最盛期。六本木にグロテスクなビルが建ち、若い人が既得権益に挑戦することがもてはやされ、誰もが「自分は何者かになれる」と考えていました。今となって考えてみると、仕事自体は面白く、先輩もよくしてくれましたが、私は、自分がまだ何にも挑戦していないと考えていました。くすぶり続ける自分に、ある日、挑戦の対象が見つかります。

私が見たのはこれの2008年とか09年版だったと思いますが、今でもあるんですね、この雑誌。

パイロットとは、戦闘機パイロットだけではない、とこのとき初めて気がついたのでした。(遅すぎ)

自社養成のために「大卒」が必要だった

当時、全日空と日本航空の子会社が「C制度」と呼ばれる自社養成を行っていました。通常、新卒のみが応募できる自社養成ですが、C制度は既卒も受け付けていました。また、航空法の改正で視力の規定が緩和されたことを知りました。

自社養成には、大卒資格が必要だったので、在職中に放送大学に入りました。専門学校時代の単位と合わせて3年次への編入、2年間で4大卒の資格「学士」を得ました。自社養成の応募に間にあわせることだけを考えていましたが、勉強そのものはとても面白かったのを記憶しています。

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こんな立派な学位記がもらえます。
放送大学は学費も格安で勉強に集中できるので、とてもオススメです。

惜しむらくは、何も「専攻」できなかったことです。一応「産業と技術専攻」と書かれていますが、専攻というには広すぎます。事実、私が取った単元は建築学、確率論、分子生物学、防災学など、面白そうなのを片端から取って興味本位で勉強していました。履歴書には「Majored for Liberal Arts」と書きますが、特に海外の面接では具体的に説明するのに苦労します。

その後、自社養成に応募、最終面接で落ちてニュージーランドに活路を求め、今はフラッグキャリアのエアラインに勤めていますので、パイロットは(いわゆる)高学歴じゃなければいけない、という言説に対する一つの反証にはなったかなと思います。

大学は素直に出たほうが面倒は避けられる

しかし、私の例を大学中退してもパイロットになれる、と積極的に解釈することには、注意が必要でしょう。本当にやりたいことがあって、専攻を変えるならまだしも、私のように消極的な理由で中退すると、その理由を将来ずっと説明する必要が出てしまいます。これは、面倒です。

また、航空大学校は大学に2年在学したあとに入れるようですが、航空大学校を卒業しても大卒資格にはならないので、今の私が大学生だったら、大学を卒業してから挑戦すると思います。もし海外に挑戦したくなった時に、これまた面倒だからです。オプションを広げる方向に舵を切るのがいいですね。

できればグライダー部がある大学を選びます。無動力飛行を4年間存分に味わいながら、一方で、どんなにくだらない題材でもいいので、卒論に心血をそそぎ、それを誰よりも楽しげに語れるようにします。まずは日本語で、余力があれば英語で。

大学の名前より、情熱を持って語れることをつくろう

結論です。

心血を注いだことを、情熱を持って、豊富な語彙で語れるなら、大学名にそれほどこだわらなくても良いのではないでしょうか。

少なくとも、私が海外のエアラインで面接を受けた経験では、ことさら大学名を聞かれたことはありませんでした。

ぶっちゃけ、日本の大学の名前を誰も知りません

それよりも、あなたがあなた自身の経験を語ってください、という調子でくるので「大学のときに経験したことで、是非にも聞いて欲しいことがあるんだけど、それはね、、」と始められることがあれば、とてもよろしい。パイロットの採用試験なら、グライダーの話なんかもってこいですね。もしそういうことがなければ、大学について話すことはありません。それはもったいない。

4年間の学生生活で、誰かに話したくてしょうがないことを見つけられたとしたら、それはとても素晴らしいことですね。

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自分が訓練生だった時に、こんなレポートがあったらよかったな!と思えるような内容を意識しています。自分で言うのもなんですが、日本語で書かれたパイロットに関する読み物として、ここまで具体的、専門的、かつ平易な言葉で書かれたものはないと自負しています。ご購入者の方の満足度を最優先に考え、収録してある全ての有料記事が今後追加される記事も含めて追加料金なしでお読みいただけます。ご購入者の方々とは、応募フォームやコメントを通じて交流や訓練の相談をしています。よろしくお願いします。

NZ在住のパイロットAshによる飛行士論です。パイロットの就職、海外への転職、訓練のこと、海外エアラインの運航の舞台裏などを、主に個人的な…

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