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短編「おはよう、朝だよランニング」

 短距離しか走ったことなかった俺が、ハーフマラソンに挑戦しようと思ったのは、去年の春の初めの事だった。何故そんなこと思い付いたかっていうと、理由は簡単。家の親父が一昨年突然ハーフマラソン大会に出場して、見事に完走しちゃって、その時の顔が、物凄ーく眩しかったから。

 なんだよ親父、普段あんな小難しそうな顔してるのに、ゴールするとそんな顔するのかよ・・・

 それでついうずうずして、気付いたら俺も出る!と意気込んでしまっていた。それからは週に一、二回、朝を狙って走るようになった。

 長距離って、短距離と全然違うのな。っていうのが走ってみた最初の感想だった。まず足の使い方が違った。それに瞬発力でどうにかなるもんでもないから、走り始めてすぐに、これは兎に角走り続けて身につけるしかないなって思った。

 けど、なんだろう、走れば走っただけ、楽しくなってくるんだよな。全身に汗かいて、足はぎしぎしなってくるし、腹筋のあたりも筋肉痛になったりして、毎回よろよろになるのに、毎回走った後は爽快な気分で、無暗に「いえい!!」なんて叫びたくなるような、気分上々っていうのかな。それが凄い心地好くて、またやったるぜ!って思ってしまう。

 親父は親父でやっぱり日頃から走ってるみたいで、絶対一緒には練習しないんだけど、俺が走ってくると、「お、走ったか」て。

 そうやって一年、お互いに走り続けて、今年も春が近づいてきて、親父と二人、エントリーした大会が迫って来た。

 でも、大会は中止になった。

 今年は仕方が無かったんだ。来年だって分からないみたいだけど、それはもう仕方が無いなって、俺は思う。

 けど俺は、走り続けた一年が、最高に楽しかった。そんで、ゴールはお預けか、って一度は思ったけど、そうじゃないんだ。たとえ大会に出なくたって、ゴールを決めるのは自分でいいんだ。だから俺はこう決めた。

 一年で百キロ走ろう。その目標をクリアする日が、毎年のゴール。

 この量が短いか長いか、そんなことどっちだっていい。これが俺のゴール。これからも、自分のペースでランニングだ。こんな楽しいこと、もう簡単にやめられない。そんで、これは密かに、いつか口に出せたらと思ってることで、ここではちょっと、せっかくだから、言っておこうかな。

 いつか親父を誘って、一緒に走ってみたいな。

 さて、今朝も気持ちいい空が広がってる。おはよう、ランニングだ。

 

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