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#わたしの宇宙のはじめかたVol.2 小泉宏之さん(東京大学 大学院新領域創成科学研究科)

0: 「わたしの宇宙のはじめかた」とは

 sorano meは2019年10月に「宇宙ビジネスで私たちのくらしを豊かにする。」というミッションを掲げて創業し、宇宙ビジネス領域で活躍できる人材を増やしていく活動をしています。

本連載では、現在宇宙ビジネス領域で活躍している方々が、どのように宇宙に関わるようになったのかインタビュー形式で紹介していきます。

第2回の今回は、東京大学 大学院新領域創成科学研究科 准教授の小泉宏之さんにインタビューをしていきます。

また、本企画はsorano me代表の城戸彩乃が委員を務める宇宙ビジネス共創委員会のイブニングセミナーとの連携企画でもあります。
イブニングセミナーのイベントの様子は、日本航空宇宙学会 宇宙ビジネス共創委員会のYouTubeチャンネルでも配信しているので是非ご覧ください。

1: 東京大学 大学院新領域創成科学研究科 准教授の小泉宏之さんの紹介

ーそれでは、はじめに自己紹介をお願いします。

はじめまして。

東京大学では、宇宙推進工学の研究室で宇宙推進工学の中でも、電気推進(プラズマを使った推進)あるいは小型衛星用の推進機を研究対象として、主に実験的研究をおこなっています。
現在は、科研費の国際共同研究強化(A)を活用し、スイスEPFL宇宙センターにて共同研究を進めています。着任10年目にあたることもあり研究サバティカルのような形です。
兼業としてPale BlueのCTOを務めています。推進機の研究・開発に関する統括や技術的な部分を見ています。

小泉写真 (2)

東京大学 大学院新領域創成科学研究科 准教授の小泉宏之さん
©小泉宏之

2: 宇宙のはじめかた

ー宇宙の魅力というのはどんなところでしょうか。

宇宙開発というよりは、宇宙工学研究あるいは宇宙探査に興味がありました。どちらも広義で言えば「宇宙開発」に含まれると思いますが、宇宙工学研究というのは学術の世界ですので「日本ではじめて」「日本のために」ではなく「世界ではじめて」「人類のために」という意義に惹かれています。

また、大規模プロジェクトにおける役割を担うよりも、研究という個の成果が明確に見える場所での活動も好きです。宇宙探査の方は、人類の誰も見たことのない世界を切り開く点に大きく惹かれます。

ー宇宙開発を仕事にしようと思ったきっかけは何かありますか?

子供の頃、宇宙には大きな興味を持っていましたが、気軽に宇宙に行けない状況に歯がゆさを感じていました。宇宙飛行士が良いと思った時期もありましたが、自分は宇宙に「遊びに行きたい」のであって「何かミッションをしに行きたい」のではなく、強い興味には結びつきませんでした。

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幼少時代の小泉先生 ©小泉宏之

それよりも、気軽に宇宙に行ける世の中にしたいという思いが強かったです。またそれと並行して、あるいはより強い思いで、発明家や科学者として新しいものを発明・発見することにも憧れていました。大学での専門として宇宙工学を選択したのは、これらの融合・折中案といえるかもしれません。


ー2011年に東京大学の准教授に就任しご自身の研究室を持つことになった経緯を教えて下さい。

東京大学で修士を取得し博士課程に進学した時点で研究者として生きようと考えていたので、いつかは自身の研究室を持ち研究を進めたいと考えていました。2003~2006年の間、出身研究室で助手を務め、2007~2010年はJAXAの宇宙科学研究所で助教を務めました。
この間も独立するタイミングは常に考えており、2011年に東京大学の出身研究室において准教授につく機会が訪れ今の立場になっています。

ただ、宇宙科学研究所における仕事では研究と並行してはやぶさなどのプロジェクトを進めており、宇宙探査プロジェクトの魅力と重要性を大いに感じていたところでしたので、宇宙科学研究所を離れることには葛藤もありました。最終的には、自身の裁量で研究を進める環境を選択したことになります。

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2010年6月、はやぶさのカプセル改修時の様子 後列左から3人目が小泉先生
©小泉宏之

ーJAXAでの助教としての経験、東京大学での准教授としての経験、Pale BlueのCTOとしての経験が、リンクしていると感じるところはありますか?

宇宙科学研究所におけるプロジェクトの経験は、現在の研究室方針の骨子である「研究とプロジェクトを両輪とする」に大きく影響を与えています。
そしてその方針の下で研究を進めた卒業生達がPale Blueを創業したので、そういったつながりは感じます。

Pale BlueのCTOとしての経験が今後どのように結実していくのかはまだわかりませんが、大学の10倍速とも言えるスピードでチームが結成されプロジェクトが進んでいく様を見て、経験というよりも大きな刺激を受けています。
既存の組織にいてある程度の経験を積んでいくと「これをやるにはだいたいこれくらい時間がかかる」というのが良くも悪くも読めるようになってしまうのですが、Pale Blueのようなスタートアップ企業ではその常識が大きく覆されるので衝撃です。

ーこれまでに影響を受けた言葉は何かありますか?

著名な物理学者であるファインマンの

「If you can’t explain something in simple terms, you don’t understand it well enough」

という言葉は、座右の銘と言えるものです。
研究を進める中で「自分の力量が顕になる」あるいは「自分の理解がより深まる」のは他者に説明をしているときと感じます。


自分の理解が浅いものほど、説明をうまく行うことができません。逆に自身の頭を整理しつくすと、納得の行く説明ができるようになります。
この点は、大学において講義を担当するようになって一層強く感じるようになりました。その意味で、講義を準備することは自身の理解を深めるもっとも強力なツールになっていると思います。


ー小泉さんにとってのキーパーソンを教えてください。

正直、たくさんいますので一人を選択というのは難しいです。
慶應義塾大学の学部時代には、演習課題において前年JSASS会長の松尾先生の講義で初めて数値流体力学(CFD)に触れました。
卒業研究では棚橋先生の下で本格的にCFDを行いました。棚橋先生の構想を実装・改良する形で自由に進めさせてもらいました。このときの数値計算の経験は今も重宝しています。

大学院からは、東京大学の航空宇宙工学専攻における実験研究と、分野を大きく変えました。指導教員の荒川先生は現在の専門である宇宙推進工学の道を教えてくれた先生であり、唯一のキーパーソンと言われれば間違いなく荒川先生となります。また、学生時代及び現在を含め、小紫先生からは推進工学に加えてアカデミアにおけるあるべき研究者像を学ばせてもらいました。

宇宙科学研究所時代には、現所長の國中先生の下で、実機宇宙探査プロジェクトに関わることができたのも大きなターニングポイントだったと思います。
この経験によりそれまで実機を知らない研究しかできなかった自分が、実機を意識した研究ができるようになりました。


ー事業を進める上でつらかったことや、モチベーション維持の方法などはありますか?

特に決まった方法はありません。その時に応じて足掻くことしかできないと思います。
モチベーション維持とは少し違いますが、心と体ふくめた健康維持が仕事を進める上で最重要と思いますので、ロードバイクに乗ったり、料理をしたり、日本酒を探したりしています。

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趣味のロードバイクを楽しむ小泉先生 2022年元旦ジュネーブにて
©小泉宏之

3:今後のビジョンについて

ー現在取り組まれている研究をどのように発展させていく予定ですか?

宇宙で実施できることをより拡大していく、その延長として様々な宇宙探査を可能とすることが私のビジョンです。別の言葉で言えば、前者は宇宙産業/経済を拡大させるというもので、それが後者の「宇宙探査」に必須だと思っています。

10年あるいは20年に1回しか実現できない宇宙探査だけでは、とても宇宙は探査しきれない。もっと多種多様に頻繁に宇宙が探査されていく世の中が理想です。

宇宙経済や宇宙探査は、どれも総合力で決まるものですので、どれか1つの技術で解決するものではありません。逆に言えば、どれも必要とも言えるので、自分の好きなフィールドを選択しても良いと言えます。その意味で、個人的な趣味として「宇宙機でもっともかっこいいのはエンジン」というスタンスで貢献していきたいと思っています。


ーアカデミアの世界からスタートアップの世界に飛び込みたいと思っている人にメッセージがあれば是非教えてください。

私自身は「飛び込んだ」わけではなく「飛び込む人を支えた」という立場なのですが、個人的には、アカデミア・スタートアップ・既存企業などの境界というものが、実は幻覚のようなものなのではと感じています。
アカデミアの中でも分野を変えれば大きな困難が伴いますし、スタートアップの中でも会社を変えれば同じことです。ただこのような新しい環境から学ぶことはとても大きいので、大なり小なりそのような変化を与えていくことは必須だと思います。

さらに世の中の変わるスピードも加速していますので、同じ環境にいても実質的に分野が変わっていくようなこともあるかもしれません。つまり、どのような形にしろ自身の環境を変えていくことが、これからの世の中において必須であり必然なのかと思います。

4:最後に

今回インタビューした小泉さんは、小さいころから宇宙に興味を持ち宇宙飛行士が良いなと思った時期があったものの、気軽に宇宙に行ける世の中にしたいという思いから研究者になっています。

大学機関での研究、宇宙科学研究所におけるプロジェクトの経験、自身の研究室での活動を通じ、ご自身の価値観のもとで掛け合わせた結果今のキャリアへとなるのは必然だったのかもしれません。
イブニングセミナーの中で「ターニングポイントを意図的に作って行きたい」との言葉もありました。世の中の変化のスピードに対して、自分の環境も変えながら、変わった環境で学べることを自分の付加価値にできるように今も挑戦し続けているのだと感じました。

今後も宇宙業界で活躍する人々に、宇宙を目指したきっかけやどのように仕事に取り組んでいるのかインタビューしていきたいと思います。

次回は、イブニングセミナーで小泉先生と一緒にご登壇いただいたPale BlueのCEO浅川純さんです。お楽しみに。

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