渡つぐみ

短歌を詠みます

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月丸い!と祖母が背中に叫ぶからなかなか駅に辿り着かない なんでもある街に生まれて 本当に欲しかったのはきみの手のひら 工業団地行きのバスにも乗り慣れて小さな爪をふと思い出す 何十回も暑くて寒くてこの町の山茶花がまた迎えてくれる 忘れられないとあなたは言えるから 金木犀が今年も咲くよ 短い秋の隙間に落ちた フランス語で“風の家"というきみのアパート 組み立てた本棚をパノラマで撮って送ってくれる 明日会えるね 銭湯に行けば痩せている人も太っている人もいないとわかる

    • 毎日歌壇 2020〜

      みどりいろの結婚をする僕たちはガードレールを辿って歩く 安いって理由で買ったセーターの毛玉だらけの人生のこと いつまでも桜の写真をいちばんに見せてあげるね暮らせなくても 遠くからマリオがコインをゲットする音鳴り止まぬリハビリ室にて 不安を煽るすべての雨に目を瞑り 白つめくさの咲く丘にきて 恋人の実家の犬が亡くなってわたしの夢でも走らせてやる 目を閉じて触るクラゲのストラップ 見えなければこうして愛した ワンルームにリモコンが6つもあって君に近づく日なんて来ない

      • 毎日歌壇 2018〜

        いつだってどこからだって逃げ出せる 街中(まちじゅう)の光あつめて遊ぶ リビングからパンのにおいがしてきて私は許されたのだと気づく 「爪を塗る」と言えばSiriは「妻になる」いつまで寝ぼけたふりをしてるの イアリングを落としていないか確かめるように男に触れる左手 視線を辿れば飛行機雲続き戻れないことがこんなに嬉しい 愛を込め教授が話すモンドリアン、カンディンスキーの響き忘れぬ エンドロールより後に死ぬ人たちのことを思ってもう一度泣く 二人とも何も越えられないまま

        • 飴が溢れて

          Y字路に黄色い花が立っていてここであなたと別れてみたい オレンジの輪切りを紅茶に沈めつつ君に知られぬ土曜を過ごす 二本目のネックレスがちぎれた夜に遠距離で別れた友だちのこと 看板が思ったより大きいことにおじさんの散歩姿で気づく 底抜けに好きと言われて底抜けなんて言葉を使う人とは知らず 君に会うため通り過ぎたいくつもの景色がわたしの青春でした 電話にて遺言のような「おやすみ」におやすみで以外の言葉で返す ちょうどいいラブのスタンプがあったのにまちがえて送る火を吹く

          ハートとうさぎのハンカチ

          壊れていてもかまいませんとくりかえし廃品回収車は異世界へ 何味か気にせず食べるポイフルのわたしがラズベリーだと知って 寝転んで方角のない青空をさかさまと呼び子どもは笑う スターウォーズを観ない私を好きでいてほしくてスターウォーズを観ない 放っておいて埃の積もる食器屋に吸い込まれていく私のことは 読みかけの小説みたいねたくさんの愛を見逃し向かい合う夜 目玉焼きをのせたらよくなるナポリタンみたいに全部よくなるはずだ 動物園のマップがポッケに入れっぱで嬉しくてそのまま

          ハートとうさぎのハンカチ

          クジラノクツシタ

          食パンに砂糖をかける祖母かつて悲しみに花をばらまいたこと 決められた場所で静かに立ち上がる白木蓮の迷いは刹那 耳のほくろがピアスみたいだはじめから無敵なんだと教えてあげる 飛び級であなたと同じ星へ来た絵具まみれの机を捨てて 寝違えた首をさすってほしい朝 平日の海を知らずに暮らす 一億の歴史はこの際ほっといて産毛がじゃまって笑い合いたい 報道に正しく怒る母親の髪むすぶ指細きを思う ステージのレモンタルトがくずれても星占いだけ信じて踊る こんなにも小さな列車に詰め

          クジラノクツシタ

          台湾

          街に溢れる「補習塾」の文字 学歴社会と知れば親しみの湧く 台湾のチョロいUFOキャッチャーで偽物のかばん手に入れてしまう インスタでよく見る景色は一瞬で傘さし階段登る九份 点燈に書く願い事は特になく弟は考え抜いて「フル単」 遠くへ行けば変われてしまう人たちがたくさんいるのに ここにいたい

          三つ編み

          毎朝猫になるために早起きをして黒いしっぽを編んでもらうの いつまでも意識されないKOKUYOのマークみたいに見守っている 究極に単純なものに成り下がりハートの数でしあわせ測る 踏めないことは信仰だったはず ヒールの裏に描くシンデレラ 四分三十三秒の間に互いの点になって消えよう 刀舞う戦闘シーンの諦めの中で最後に笑うのはきみ あなたなら大丈夫と言う唇にもれなくミートソースは付いて

          三つ編み