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ハートとうさぎのハンカチ

壊れていてもかまいませんとくりかえし廃品回収車は異世界へ

何味か気にせず食べるポイフルのわたしがラズベリーだと知って

寝転んで方角のない青空をさかさまと呼び子どもは笑う

スターウォーズを観ない私を好きでいてほしくてスターウォーズを観ない

放っておいて埃の積もる食器屋に吸い込まれていく私のことは

読みかけの小説みたいねたくさんの愛を見逃し向かい合う夜

目玉焼きをのせたらよくなるナポリタンみたいに全部よくなるはずだ

動物園のマップがポッケに入れっぱで嬉しくてそのままにしておく

まいにちが今日だと忘れないでいて娘が娘にわたす宝石

友だちは減っていくけど人生は喜びだから 指輪をつける

ファミレスでほっぺをつねり合うどうせいつか自転車さえこげなくなる

うなだれたプラナム通りかなしみに頷くことは愛だったはず

出番まで引き出しにしまうプレゼントこの恥ずかしさを捨てたりしない

好きでいて、お守りになってあげるから。ハートとうさぎのハンカチあげる

何もかも聞きそびれている夕暮れにむすんでひらく花の淡紅

埋めてないタイムカプセルを掘り起こすように目が合う 春の陽ゆれる

好きなバンドが売れたり売れなかったりしていつかはちゃんと死ねる日がくる

トルソーの手足を想像するように偽物の恋ばかりを知りぬ

花びらを蘇らせるつむじ風この踏切をもう渡れない

落ちているナンテンの実に微笑んであなたの朝がはじまるように

快晴の白い美術館 死ぬことを忘れて生きる私を見ていて

デンマーク絵画のぬくもりとつめたさ君に似ているなどとは告げず

あの海にもきっと名前があったのだ二人がひとりで生きていた頃の

開けっぱのスーツケースは知らぬ間に小さな虫の棺桶となる

花咲かぬように静かに暮らしてた無花果の実を撃ち落とす春

改札に捨てられたメスのテディベア歴史はかんたんには変わらない

本当はきみになりたいだけなのに明日はカレーを作ってもらう

ぼくたちのボロい部屋にも朝がきて壁には絵画みたいな海だ

そろそろ猫を触りたいとか言う人に私で我慢しろよと言わない

水道水が飲めない人と暮らしてるどこにも行けないままでいてよね

(2020年 第63回短歌研究新人賞応募作)

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