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クジラノクツシタ

食パンに砂糖をかける祖母かつて悲しみに花をばらまいたこと

決められた場所で静かに立ち上がる白木蓮の迷いは刹那

耳のほくろがピアスみたいだはじめから無敵なんだと教えてあげる

飛び級であなたと同じ星へ来た絵具まみれの机を捨てて

寝違えた首をさすってほしい朝 平日の海を知らずに暮らす

一億の歴史はこの際ほっといて産毛がじゃまって笑い合いたい

報道に正しく怒る母親の髪むすぶ指細きを思う

ステージのレモンタルトがくずれても星占いだけ信じて踊る

こんなにも小さな列車に詰め込まれ孤独同士は分かり合えない

隙間から漏れる冷気を私だけが世界のために受け止めていた

くじらが足を飲み込むデザインのくつした今日は祈りも届く

眠るたび死ねるあなたが何度でも新しく知る裸足のつめたさ

誰からも奪えないなんてやさしいね みどりの星を選んで渡す

オレオをミルクに浸けたことがないあなたと焼きマシュマロしたい朝

会えないことで近づく気がしてた絨毯の下にキラキラしまう

いくつもの懺悔の言葉におそわれて味のないしゅーくりーむを投げる

下着や食器を汚す生活のそれでも輝きだと信じたい

私なりの正義なのです初めてのふりをしてペリカンを見ていた

柑橘を川に浮かべるどこまでも日なたを選んで歩いていけよ

言わないと決めた言葉はぎんいろのバケツの底にやさしく沈む

私を神様みたいに思ってるすべての人に見せたい雌しべ

できぬことばかり数えて踏みしめる芝生の青がこんなに遠い

幸せの覚悟をいつからしていたの巻き舌でロマンスと歌うけど

これ以上輝けませんと泣いた日にあなたの部屋の金魚になれた

花びらの一枚にもなれないくせに私のカメラロールを埋める

会いたいと伝えることは弱さだと言われた夜のかたいかたい林檎

はちみつ色の予感が小さくきらめいた短い秋をあなたは忘れる

お守りに記憶を抱いて朝を待つどこにも行けないままでよかった

変われないことも変わっていくことも許してくれたアパートの白

絶対と口にしてみる自転車の籠から花を落とさずに走る

(第62回短歌研究新人賞応募作)

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