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【短編小説】お久しぶりです恋人さん

手を繋ぎたいです、と急に言われて、最初は分からなかった身体が、首の付け根からぐぐぐーっと熱くなって反応する。

「なに、きゅうに」

自分でもどんな顔をしているかわからないまま聞くと、

「たまにはいいでしょ」

と表情を変えずに返された。

指をからめることなく、握手みたいにしっかりと手を繋ぐ。
そのまま土手沿いを歩くと、ちらほらとスーツ姿で自転車をこぐサラリーマンや、大きなスポーツバッグを持った学生たちとすれ違う。目は合わない。けど、意識されているような気配を感じる。

「見られてるかな」
「別にいいでしょ。夫婦なんだから」
「そっか」

会話が終わるとあとは、夕陽がきれいだねとか今日は食べようかねとか、そんな他愛のない話をしながら、空を自由に飛んでいくカラスを二人で眺めた。

何十年ぶりだろう。
まあ、こういうのも悪くないと思ってあげるよと言うと、ありがとうございますと笑われた。
夕陽が沈むには、まだ時間がかかりそうだ。


おわり

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