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【短編小説】おーしまい


「さな、死んだんだよ」

写真におさめたら白く光って色が飛んでしまいそうな空が、窓にうつっている。

カウンターの席しかない牧歌的な喫茶店に似合わない言葉だったので、私はまず、聞き間違えた、と思った。口を開いていた光代のほうを眺め直した。思ったよりも深刻な表情に確信して、身体が固まった。

「え」

「去年。事故で」

ひとつひとつ駒を置くみたいに、そっけなく光代が教えてくれた。

「知らなかったんだ」

光代にそう言われて、羞恥のような、怒りのような気持ちが、ふくふくっと張っていた液体から泡になって出てきた。知らなかった。だって、私は光代に、親友に会うのですら数年ぶりで、だから去年のことなんて知るはずもない。会う前に、光代にだって言っていた。どうして私が知っていると、むしろ思うんだろう。

さなが亡くなったという事実よりも私は、今ここから離席したい気持ちが強くなる。潜めた眉は、同級生の突然の訃報に耐えられない表情に見えていたらいい、と思った。

同級生とはいえ数回しか話したことのない、さなの、いたいけな「おーしまい」という声が、なぜか頭の中で、ブランコに耳を当てた時みたいに響き渡った。



おわり

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