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高校の同級生が来週から医者になる話。

「レジリエンス」というのは、少し前から心理学でよく使われる言葉で「回復力」などと訳されるものだけど、自分は「弾性力」という訳し方のほうがスキです。

レールの上を次々に走っていく、トロッコから一度降りた人間が、のびきったバネを使って見事によみがえる話。子どもたちにも手に入れて欲しい「強くしなやかなレジリエンス」の話。

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彼とは高校一年生のとき、同じクラスになって、偶然にも同じ部活に入った。
高校の水道でカミソリをつかって、スキンヘッドに頭を刈り上げる習慣があったことはよく覚えている。
部活のたびに話はしていたけれど、それ以上のことはよく知らないし、彼が何を考えて高校生活を送っていたかもわからない。

彼は高校卒業後、国立大学の前期試験で第一志望に不合格となり、後期試験で旧帝国大学の工学部に入学した。

それはそれで有名大学だったが、彼にとっては何かが違った。
新しい大学生活を始めてはみたけれど、すべてが違った。

ここはではない、ここは違う。自分が所属したかった世界ではない。なんだか満たさなれない日々。

彼は大学1年ではやくも退学届をを提出し、地元に帰った。
高校の担任に報告すると、一緒に頭を下げてやるから今から退学を取り消してもらってこいと怒鳴られた。

そんな言葉も彼には響かず、その先生とはケンカ別れのようになり、実家で暮らしていた。
なにをしたいわけではないし、実際になにもしない。ただ時間だけが過ぎていく。

働かず、勉強もせず、何も生産しない無為な生活。

一緒に暮らす父親も我慢できなくなり、「家でごろごろしてないで模試でも受けてこい」と5000円を彼に渡した。

父親からもらった5000円札を握りしめ、彼は大好きなうな重を食べて家に戻った。

引越バイトや坂道系アイドルのイベントスタッフをしながら生活を続けた。
押し寄せるアイドルに熱狂した人類の圧力を両手で受け止めていた。

ここまでが彼がトロッコから降りていた話。井戸の中でバネをどんどん伸ばしていたときの話。

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何でそんなことになったかはわからないけれど、彼はそのような生活を何年も続けた末、センター試験で見事な点数をとって医学部に入り、今年の3月の医師国家試験に合格した。自分と同級生だが、どのくらいの学年差があるかもわからないくらい。

地元の居酒屋で、モツ鍋を食べながら、しっかり腰をすえて2人で言葉をかわした。おそらく高校生のとき以来だったと思う。

彼は自分を待っている間、UFOキャッチャーで獲ったと言ってゲームセンターがうたう「世界一うまいコーラ」を手渡してくれた。

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センター試験が廃止になり、段階的評価に変わるというニュースをきいたとき、世の中の再受験生は震えたようだ。

確かに、ずっと安定した環境とメンタルを過ごし、努力をしてきた人は、多くを評価されるべきかもしれない。

ただ、どこかで一発逆転の世界がないと、深い場所まで穴を掘り続けた人が復活することは難しい。

時々、いつも、わたしも貴方も選択を間違える。何年も間違え続ける。

家庭や環境は選べないことも多い。そのような状況でレジリエンスを身につけることはとても難しい。

きっと彼は子ども時代にたくさんの愛情とパワーを蓄えたのだと思った。

彼のお母様がそらいろコアラの活動に興味をもってくれている、ときいて記事を書いている。

うな重の話はお母様には見なかったことにして欲しいけれど、伝えたかったレジリエンスの話。

最近、スキが増えて嬉しい。facebookのイイネもありがとうございます。





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