蒼海宙人

週末クリエイター【おうみ そらひと】と申します。小説を書いております。 短編小説や随筆…

蒼海宙人

週末クリエイター【おうみ そらひと】と申します。小説を書いております。 短編小説や随筆、写真を公開して参ります。よろしくお願いします。 ミステリ小説『ソウルカラーの葬送』連載中です! ご意見・ご感想はこちらでも。→air7212000@gmail.com お待ちしております。

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  • 【小説集】

    自作の小説をまとめています。おやすみ前のひと時に読んでもらえたら嬉しいです。

  • 【ミステリ小説】ソウルカラーの葬送

    前作・『短編小説集・花蓮』続編 ──あなたが強く望めば、あなたの切望する環境は自ずと整うのですよ。望みなさい。そして流れに身を委ねるのです。 『私』が彼──皇与一(すめらぎ よいち)と出会うとき、過去の奇譚が真実の姿を見せる。  複数の事件が結びつき、やがて『花蓮』を巡る物語に終わりが訪れる──。

  • 【エッセイ集】想ひのたけ

    日常の中の「想ひのたけ」をじっくり、ゆっくり、文章とオリジナル写真で綴ります。不定期更新。月に2本のペースを目標に。

  • 【連作ホラー短編集】 花蓮─karen

    花蓮──彼女をめぐる人々の想いが交錯するとき、やがて悲しき真実が明かされる。畏怖・束縛・嫉妬・裏切り。溢れ出す感情は、心の闇を静かに晒す。 「ホラー編」四編。解答編『ソウルカラーの葬送』は別マガジンからどうぞ

  • 【雑文集】

    自分の気持ちをすくい取って、文章を書きます。 楽しいこと嬉しいこと、悲しいこと達。

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【ミステリ小説】 『ソウルカラーの葬送』第一部 ①

 第一部  一、  高田馬場駅を出て大通り沿いを早稲田方面に十分ほど歩いて行くと、目指す雑居ビルが右手に見えてくる。無味乾燥としたコンクリート造りの飾り気のない建物だ。  そのビルの二階に、彼は事務所を構えていた。八月のジリジリと焼け付くような日差しを浴び、地獄の責苦のような熱風を肺に吸い込みながら、私はその日、彼の事務所へと続く階段の前に立った。    ──『☝︎株式会社 皇与一』  右の壁に掲げられた樹脂製のプレートには黒文字でくっきりとそうプリントされている。それ

    • 短編小説 『諸悪』

       蜘蛛は観ていた。天井から一本の細い糸を垂らした蜘蛛が。  西陽に照らされた少年の顔を、ジッと観ていた。  少年もまた、見ていた。  黒光りする太い梁に渡した一本の荒縄が。母親の首に隙間なくギリリと食い込む様や、かすかにユウラリと揺れる母親の全身を、ジッと見ていた。  口元からはブクブクと泡を吐き出し、端からはツーッと細い糸のような赤い血が流れていた。宙に浮く、ダラリと垂れ下がった素足の先から雫がポタポタと滴る。それは色褪せた畳の上でじんわりと手のひらほどのシミを作っていた。

      • 【ミステリ小説】 『ソウルカラーの葬送』第二部 ③

        第一部第1話はこちらから 前話はこちらから 第二部 三、 「シんだ人間……?あの時と、同じ……?」 「あぁ、そうだ」  刹那、咲良と綿曽根の混ざり合った視線の間に漂う、硬質な何か。それは間違いなく二人にしか分からない類いの“何か”だ。現に彼らの様子を傍らでただオロオロと眺めているリンには、二人の間の異質な緊張感は伝わっていない。 「そいつは、自分の大切なひとを自動車の轢き逃げ事故で亡くした。もう数年も前の話だ。もちろん轢き逃げした野郎も警察できちんと処理されている。けど

        • 【掌編小説】 『さくら』

           母が心臓の病気になって手術を受けた。  父が僕たちの元からいなくなって十年、ずっと働き通しだった母。どんなに朝から晩まで働いていても「大丈夫」としか言わない、そんな母が何週間も病院のベッドに横になっている。  母が働くのはほとんど僕のためだ。地元で有名な進学校に何不自由なく通わせるため。二年後には大学にだって行けるようにさせるため。自分のことはいつだって二の次で、僕のことをとにかく母は優先させた。 『大学なんて行きたくない。先が見えない、自信がない。母さんのために何かしたい

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        【ミステリ小説】 『ソウルカラーの葬送』第一部 ①

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        • 【ミステリ小説】ソウルカラーの葬送
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          47本

        記事

          【ミステリ小説】 『ソウルカラーの葬送』第二部 ②

          第一部第1話はこちらから 前話はこちらから 第二部 二、  この一室だけは『黒の家』そのものだった。  とにかく暗い。  それもそのはずで、そもそもこの部屋には窓が一つもない。本来は天井に備え付けられるはずの電灯の類すらないのだった。ただ、真の暗闇なのかと言えば、そうでもない。  向かって右側の壁に備え付けのデスクがあり、その上に置かれたモニターの画面が青白くぼんやりとした光源となっている。それで六畳間のこの洋室すべての暗闇を払うには、それは余りにも脆弱なのだけれど──

          【ミステリ小説】 『ソウルカラーの葬送』第二部 ②

          【ミステリ小説】 『ソウルカラーの葬送』第二部 ①

          第二部 一、  住宅地の直中をすり抜け続けた先に、唐突に現れる駅のホーム。  それを俯瞰して視たとしたら、まるで道端に置き忘れられた小箱のように思える。  ──道端の小箱?何なんだそれは怪しすぎるだろ、絶対。  西武新宿線・新井薬師駅の改札を出た綿曽根博士は、自分がまた『どうでもいいこと』を考えていたのに気が付いて内心で苦笑した。べつに今に始まったことではない。綿曽根の頭の中には、気を抜いた途端にいつもこんな愚にもつかない事どもが浮かんでは消えていくのだった。  職場でも

          【ミステリ小説】 『ソウルカラーの葬送』第二部 ①

          『死よりもなお静謐』

          『死よりもなお静謐』

          【ミステリ小説】 『ソウルカラーの葬送』第一部 ⑩

          ☜第1話はこちらから ☜前話はこちらから 第一部 十、    死んでしまうくらいの苦痛を噛み殺して、『彼女』がひたすらに耐えていた。それに覆い被さるように聞こえてくるあの男の獣じみた息づかい。  それを私はいつも近くで耳にしていた。耳にしていながらそれを聞き流し、そうしてそれを無視した。『彼女』の突き刺さるような視線を背中に受けながら。 『彼女』は私と入れ替わりたかったのだろう。  それに気付いていながら、私は──。  私はいつも、読書をしていた。  ミステリー小説、特

          【ミステリ小説】 『ソウルカラーの葬送』第一部 ⑩

          【ミステリ小説】 『ソウルカラーの葬送』第一部 ⑨

          ☜第1話はこちらから ☜前話はこちらから  第一部  九、 「投函されることのなかった手紙。舞子と花蓮に接触し得る人物。舞子が失踪したその理由──。彼女は過去の自らの日記を紐解くことで何を確かめたかったのか・・・・・・」  皇の脳内ではきっと様々な情報が溶け合い、そして混ざり合っている。  混沌。  けれど、それらをただ闇雲に並べ立てているのではないはずだ。  推理。  そうだ。皇が真実職業探偵なのであれば、彼は今筋道を立てて“推理”をしているはずだ。それは彼に与えられ

          【ミステリ小説】 『ソウルカラーの葬送』第一部 ⑨

          【ミステリ小説】 『ソウルカラーの葬送』第一部 ⑧

          ☜第1話はこちらから ☜前話はこちらから  第一部  八、 * * * 「──なので、自分の推測が正しければ菊地という女性教師イコール“追跡者”ということになるのですが・・・・・・」 『その様子だと、何か引っ掛かりがあるのですね?』 「えぇ。師はどう思われますか?彼のことを」 『その、皇さんのことですか?』 「はい」 『私立探偵の皇与一。わたくしの方でも調べさせましたが、今までに特に際立った活躍はなかったようですね。いわゆる街の何でも屋さんとでも言いましょうか。職業探

          【ミステリ小説】 『ソウルカラーの葬送』第一部 ⑧

          【ミステリ小説】 『ソウルカラーの葬送』第一部 ⑦

          ☜第1話はこちらから ☜前話はこちらから  第一部  七、    ──ご面倒をおかけして、申し訳ございません。  里見舞子の母親はその言葉通り心底申し訳なさそうな声音でそう言って、皇と私に頭を下げた。舞子の実家のリビングで脚の低い長テーブルを挟み、座布団に正座しながら両親と向かい合う。  何とも言えない居心地の悪さだ。  学校の教師が生徒の自宅を訪問するときの心境はこれに近いのではないだろうか。そんなことを頭の片隅で思いながら、私は皇と舞子の両親とのやり取りに耳を傾けて

          【ミステリ小説】 『ソウルカラーの葬送』第一部 ⑦

          【ミステリ小説】 『ソウルカラーの葬送』第一部 ⑥

          ☜第1話はこちらから ☜前話はこちらから  第一部  六、 「週末だって言うのに、ひどく閑散としているじゃあないか」  皇と私はローカル線のホームに並んで立ち、電車の到着を待っていた。右腕の腕時計を確認した皇は「あと五分か」と独りごちた。越後湯沢に着いてからかれこれ三十分、里見舞子の実家のある“魚沼中条”まではさらに電車を乗り継ぎつつ、加えてもう三十分はかかるらしい。  私は目の前に広がる田園風景を眺めつつ、その真夏の眩しさに目を細めて返答した。 「都会の喧騒を離れて自

          【ミステリ小説】 『ソウルカラーの葬送』第一部 ⑥

          【ミステリ小説】 『ソウルカラーの葬送』第一部 ⑤

          ☜第1話はこちらから ☜前話はこちらから  第一部  五、    柊まい著『白昼夢』は連作短編集の体裁をとった小説だ。短編の数としては全部で五作しかないのだから、トータルで見れば中編小説となるだろう。その各話の題名は次の通りである。   ・第一話『檻のなか』   ・第二話『再怪』   ・第三話『初故意』   ・第四話『裏見面見』   ・終話『酷白』  主な登場人物を洗い出してみると、一般的な小説に比べてその人数が極端に少ないことが分かる。一人目は男──滝川。三十代そ

          【ミステリ小説】 『ソウルカラーの葬送』第一部 ⑤

          ミステリー小説 『ソウルカラーの葬送』第4話、公開致しました❗️ 楽しんでいただけましたら幸いです。

          ミステリー小説 『ソウルカラーの葬送』第4話、公開致しました❗️ 楽しんでいただけましたら幸いです。

          【ミステリ小説】 『ソウルカラーの葬送』第一部 ④

          ☜第1話はこちらから ☜前話はこちらから  第一部  四、  探偵事務所を訪れた顧客から一体どういう流れで職業探偵に相談や依頼がなされるのか。私はその流れを興味津々の心持ちでつぶさに眺めていた。  依頼人である女性編集者──森元紗代子は、先程まで私が座っていたソファの位置に私がしたのと同じように遠慮がちに浅く座ると、チラチラと横目で事務所の中を見渡していた。彼女も探偵事務所という空間が珍しいのだろうか。当の主の探偵はと言えば、事務所の隅に形ばかりに備え付けられたキッチン

          【ミステリ小説】 『ソウルカラーの葬送』第一部 ④

          【ミステリ小説】 『ソウルカラーの葬送』第一部 ③

          ☜第1話はこちらから ☜前話はこちらから  第一部  三、 「早速だが、棚戸君!」  皇の左手が私のそれから解かれると、彼は途端に大きな声で私を呼んだ。 「な、何でしょう」 「随分回り道をしてしまったが、本題に戻ろう。この本、これについて書店員の君が知っていることは?」  皇が差し出した一冊。先程まで真剣な面持ちで読んでいた本だ。手にとってみて驚く。ここでこの小説に出くわすとは。  それは少し前に本好きの間で話題になったあるミステリー小説だった。 「白昼夢。柊まい・・・

          【ミステリ小説】 『ソウルカラーの葬送』第一部 ③