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ヘタレ師範 第3話 「サソリ蹴り」

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 すると後から
ジオン「ガラがおっかないワリにはネが優しいんだ。試合とはいえ、女を殴るのか嫌いらしいね」

俺は振り返った。

ジオンという女は、まだ立ち上がれないテッキをちらっと見て。
「その男も応募者でね、最初のとき、戦う相手がオレ(女)だと分かった瞬間、いきなり野獣のように襲いかかってきやがった。そうだったよなテッキさんよ?」

テッキはまだゼーゼー言いながら

テッキ「もう勘弁してよ。ここでは2回も気絶させられたんだ。
あんときはさあ、道場破りに応募はしてみたものの、とても緊張してて。
誰だってそうだろ?これから知らない相手と戦うんだ。そりゃ緊張するよ。
第一掲示板の募集見たとき、俺は管理者は男だと信じきっていたし。
ところがイザここに来てみると、相手が激マブのお姉ちゃんなんだ。。
あっという間に俺の緊張の糸がプチッ!って」

ジオン「ここに来た男は、みんなそうだったよ。
オレが女だとわかると、途端に安心して上から目線になるんだ。
相手が女だと知ると、男ってヤツはどうしても別のことを考えてしまうらしい。
とたんに身体中スキだらけになっちまう。
どいつもこいつも倒すのは簡単だったよ。このテッキもね」

そう話すジオンの目はキラキラしていた。
どうもこの女、仲間を募集するためだけじゃなく、男を屈服させるのが趣味らしい。

俺の背中がスっと寒くなった。

ジオン「心配いらねえよ。俺に負けたからって、仲間になるのを強制はしないからさ」
この女は自分が負けることなど全く想定してないようだった。

ガンカク「でもそのテッキさんとやらはあんたの子分のようだが?」

ジオン「この男はスケベだけど・・・」
テッキは顔を真っ赤にして。
「そんな、ジオン」
ジオン「でも空手とテコンドーのウデは、他の連中よりましだったからね。
それよりあんた、これまでの男たちよりゼントルマンらしいが、どうする?」

どうする?とは言いながらジオンは半身に構えた。しかし顔は正面を向いたままだ。
半身で顔を使用面に向けることで、相手全体を見ることができ、半身になった自分の背中にも注意を払えるのだ。
「できる!」
油断は禁物だと思った、

おまけにオレ後ろにはテッキが控えている。どうやら無事には帰してもらえそうにない。

俺は女なんかと戦いたくなかった。勝っても自慢にならないし、万一負けでもしたら・・・

その瞬間

ズン!

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俺は身体ごと3メートルも後ろに飛ばされていた。
女の前蹴りをもらったのだ。こんな強烈な蹴りは初めてだ。
畜生、『女と戦いたくない』 なんてよけいなことを考えてこのザマだ。

俺は慌てて立ち上がった。テッキが何故か驚いて。
「た、立った。この怪物、ジオンの蹴りまともに喰らって立ち上がるなんて! 俺なんて一発でノされたのに」

ジオン「さすがプロレスラーだねえ、鍛え方が違う」
彼女はそう言いざま2発目を繰り出した。これも前蹴りだったが俺はまた吹っ飛んだ。女の蹴りが見えなかったのだ。

2発目は相当効いた。ジオンの蹴りがさっきより強烈だったワケではない。同じ場所に喰らったからだ。
なんて正確にワザを繰り出すんだ!?

俺はやっとの思いで立ち上がろうとしたが、激痛のため思わず膝をついてしまった。
目の前にジオンがいた。俺が膝をついてやっと同じぐらいの背の高さだ。

ジオンはにっこり微笑んで
「やっとオレの足がアンタの頭に届くようになったよ」

またあの前蹴りをもらってはかなわない。俺は両腕で女の首を捕まえようとした。
すると女は手刀受け気味に俺の左手を受け掴み、そこを支点にして身体をぐいと捻って…上段後ろ蹴りか? 俺は後頭部に強烈な衝撃を感じた。

あとでジオンに聞いたらそれは「サソリ蹴り」というらしい。

※サソリ蹴り:後回し蹴りの一種、形がサソリが針を刺す動作に似ている。
試合で ポイントは取れるが見た目ほどのダメージはないといわれている。

しかしサソリ蹴りを喰らったときの俺は、ダメージがないどころか、一瞬にして気を失っていた。

4話「道場破り(備え)」へ続



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