ヘタレ師範2,ジオン(慈音)


前回 第1話「出会い」へ戻る

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俺の名はガンカク(岩鶴)プロレスラーだ。
とは言ってもローカルの、だけどな。

最初はメジャーなプロレス団体でデビューしたんだが、そこで生意気なスター選手とケンカになっちまって、そいつをリングの上で病院送りにしちまった。
一発でクビってワケよ。

それで都落ちして、地元のプロレス団体に拾われて現在に至るというわけさ。

貧乏プロレス団体なので、俺はいつも空ッケツ。

だから、試合や練習のない時は副業をしてるのさ。「道場破り」って副業をな。

始まりはある「闇サイト」だった。

そこには。

「道場破りスタッフ募集。
条件1、管理者と戦って実力を証明したもの。

ただし勝敗の結果にはこだわらない。

条件2、自動二輪車以上の免許を持っていること。
条件3、身体のどこにもタトゥーを入れていな
いこと。
連絡先 ✖✖✖✖
管理者  慈恩(ジオン)」

その記事を読んだとき、俺は「何だこりゃ?」同時に「面白い」と思った。

俺は管理者の「ジオン」とやらに会ってみることにした。それはそいつと戦うということを意味している。

ジオンが指定したのは、深夜のさびれた公園だった。
俺は自分のバイクでそこに行ったよ。
これで条件2、の自動二輪車以上の免許を持っていること。はクリアだな。

公園の、街灯の下にツーブロックヘヤの後ろをマンバンに結んだ若い男がニヤつきながらこちらを見ていた。
男の顔は笑っていたが目つきは鋭い。格闘家の目だ。

「あんたが慈恩さんか?」
俺より明らかに若い男だが一応敬意を払ってみた。
マンバン「まさか、後ろ見てみ」

慌てて振り向くと、そこには若い女が立っていた。
長い金髪、白い肌に真っ赤な口紅。

「その人が管理者のジオン(慈恩)だよ」

驚いた。ジオンというヤツにいつの間にか後を取られていたのだ。これは格闘家にとっては致命的な失敗だ。

しかもジオンが女? 想定外だ。

「道場破り募集」「自分と戦って実力を証明した者に限る」なんて、とても若い女をイメージできない。

それに、小娘の趣味になんか付き合うわけにはいかない。

「悪いが帰らせてもらう」
ジオン「なんだ、図体はでかいくせに、しっぽ巻いて帰るのかい?」

「俺はプロレスラーだ。ローカルとはいえ現役だ。男相手ならリングでも街でも戦ったことあるが、あんたみたいな女の子相手は素人同然でね」

ジオン「そっか、女は嫌いなのかい?」
「いや、そんなワケじゃ・・・」

女が嫌いな男なんて、この世にどれぐらいいるんだろうか?
ただ俺は女と戦いたくないだけだ。
いくら男女平等の世の中と言ったって、女相手に戦ったって、勝っても自慢にならないし、もし負けでもしたら‥‥‥。俺がそんなことを考えていると。

ジオン「だったら男ならいいんだ。テッキ!出番だよ」

すると、待ってましたとばかりにツーブロックマンバンが飛び出してきた。テッキというのが名前らしい。しかし、ジオンとかテッキとかヘンな名だ。おそらくハンドルネームなのだろう。

「キエーッ!キエッ、キエッ、キエーッ!」

サルみたいな気合とともに、テッキはいきなり、キレのいい蹴り技を次々に繰り出してきた。速い。ワザも多彩だ。

なんとかかわしながら
「テコンドーかよ?」
テッキ「空手もやるぜ、どっちも段持ちだ」
そういうと、蹴り技にパンチを加えてきた。

俺はあえて反撃はせず、逃げ回ることにしていたが今度は、パシパシと奴のパンチが俺の体に当たるようになった。   

  しかし軽い。
鍛え上げたプロレスラーの肉体(カラダ)を舐(ナ)めている。

俺はいい加減面倒くさくなった。

「段持ちか、やるじゃないか。でもよ、あのジオンとかいう女には勝てなかったんだろ?」
ヤツの動きがピクリと止まった。

「何を!?」
「さっき命令されてたじゃねーか『テッキ
「あんたの出番だよ』ってな」
「う、うるせえ!」

俺はヤツの攻撃をかわしながら。
「テッさんよ。あんたも『道場破り募集』に応募したんだろ? そして負けた。今じゃあの女の子分ってか?」
テッキ「言うな!それ」

女に負けたという一言がよっぽどカンに触ったのだろう。
テッキの攻撃がめちゃくちゃ速く激しくなった。

シロウトってヤツは、怒らせるとすぐムキになって暴れだす。
暴れだした攻撃は激しく油断できないが、長くは続かない。

案の定、テッキの攻撃は鈍くなり、肩で息をするようになった。

俺はすぐにテッキの首根っこを捕まえて締め上げた。
ヤツは手足をバタバタさせて反撃を試みたが、こっちはプロだ。どうにもなるもんじゃない。

「グウ、グググ」

今度は必死になって、俺の腕をパタパタ叩いてギブアップの意思表示をしたが俺は手を緩めず。

「素人の喧嘩ってのは、殴る蹴るに夢中でスタミナってものをまるで考えない。
俺はプロレスラーだからよ。30分一本勝負とかザラなんだ。おめえなんかとは体の鍛え方が違うんだよ」

そう言って手を離してやるとやつは地べたにくずれ落ちた。柔道でいう「落ちた(気絶した)」ようだった。

俺は踵(キビス)を返して帰ることにした。

ーーーーーーーーーーーーー本文終わりーーーーーーーーーーーー

ヘタレ師範3 「サソリ蹴り」に続く


 


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