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ヘタレ師範 第4話 「道場破り(備え)」
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俺はテッキ。
もちろんハンドルネームさ。漢字で書くと「鉄騎」。空手の形の名前さ。
流派によってはナイファンチとかナイファンチンとも呼ばれている。
でもいくらなんでもハンドル名がナイファンチンじゃなあ。
俺は大学生だが、ジオンに会う前はとても荒れてた。
俺は、大学のテコンドーサークルに所属していたんだが。
そのころ付き合っていた同じサークルのマミコが他の男に乗り換えたんだ。
相手は、サークルのリーダーで、俺の先輩でもあるカヌマという長身イケメンだった。
俺はそのマミコも、先輩カヌマも、サークルも何もかもが嫌になった。
好きな女に裏切られると、男ってヤツはPTSDになるもんだな。
俺は、マミコとカヌマに復讐することにした。
格闘技系の人間は、たとえ正当防衛でも、シロウトを相手にゲガでもさせれば責任を負わされる。(ことが多い)
しかし、俺もカヌマも格闘技経験者だ。互いに黒帯だし。それがリングの上の闘いであれば、事情が全く変わってくる。
俺は カヌマにスパーリングを申し込んだ。
その時カヌマはニヤつきながら。
「女の恨みを俺ではらそうってか?」
「‥‥‥」
「てもお前、俺に勝ったこと無いだろうが?一度も」
「いえ、勝ち負けじゃないんで。ケジメを付けれれば、それで‥‥」
口ではそんなカッコ付けてたが、心ん中では、
「(ケジメってのはアンタを叩きのめすことだよ。どんな手を使ってもな)」と叫んでいた。
俺は確かにカヌマには、道場でも公式試合でも刃が立たなかった。
カヌマはテコンドーの公式大会では、いつも優勝を含む上位の成績を残すほどの実力者だ。
俺なんかよりかなりずっと上だ。
でも俺には秘策があった。
テコンドーサークルは、いつも大学の体育館の一角を借りて練習していた。
サークルと言っても格闘技系なので練習は部活と遜色がないほど厳しい。スパーリングもする。公式の試合に出場することだってある。
その日はそこでスパーリングが行われた。サークルの練習の後ということで見物人も多かった。マミコがカヌマのセコンドに立っていた。
審判役の学生が。
「キョンネ!」
向かい合った俺と先輩が、頭を下げる。「キョンネ」は、「礼」と言う意味だ。
続けて。
「シジャック!」(始め!)
試合が始まった。
カヌマ先輩は、テコンドースタイルで軽快にステップを踏みながら、色々な足技を繰り出してくる。
テコンドーは蹴りワザ主体だ。パンチはストレートくらいしかない。
さすがにあらゆる大会で優勝や上位入賞の経験のあるカヌマ先輩の実力は俺の遠く及ぶところではない。
俺が一撃出すたびに、先輩は軽くあしらい、ドスドスと突きや蹴りが帰ってくる。俺が吹き飛ばされて、床に叩きつけられる。
そのたびにマミコが黄色い声を上げ、サークルの連中も歓声をあげる。
「女なんかのために無駄な抵抗しやがって」
先輩がワザを仕掛けながらそう呟いた。
その一言で俺のメンタルは限界に達し、
「キエーッ!」
いきなり、先輩がぶっ倒れた。
俺のローキックが決まったのだ。
「キャー!」
マミコが悲鳴をあげ、仲間たちがざわつき始め、その一人が。
「反則じゃないか。カムチョン(減点)だぞ」
テコンドーのルールでは腰から下の攻撃は反則なのだ。破ると カムチョン(減点1)となる。
カヌマは起き上がりながら。
「ローキック、空手か? お前テコンドーで、俺と勝負する気は」
「あるわけないッスよ。俺は負ける喧嘩はしないんで」
カヌマは立ち上がって構えたが、さっきまでの自信満々な態度は無くなっていた。
いくらテコンドーでチャンピオンクラスでも、相手がルール以外のワザ、テコンドー以外の格闘技で挑まれたら、自信満々でなんかいられない。
俺がグイと踏み込むと、カヌマは空中回転蹴りだの、後ろ回し蹴りなどの、華麗な回転ワザを次々に繰り出したが、
ガキッ!
飛んでくるカヌマの足の甲を空手上段上げ受けの肘で受け止めた。カヌマの回転が止まり、ヤツの顔が苦痛に歪む。
俺はすかさず、ヤツの顔面に膝蹴りを打ち込んでやった。膝蹴りもルール違反だ。
カヌマは起き上がる事ができなかった。
会場は一瞬静かになったが、マミコがカヌマにとりすがり、悲鳴のように泣き出した。
俺は目的を十分達したので、黙って会場を出た。
俺は、実はテコンドーの他に空手も習っていたんだ。これは子どもの時から町道場でさ。
だから、テコンドーより空手のほうが、思い入れがあったし得意だったんだ。
だから先輩と戦った時、俺は空手で戦うつもりだった。でも最初からそうしてしまったら先輩にも、サークル仲間にも失礼だからな。
でも、ガキじみた復讐劇だったよ。
俺はけじめをつけてサークルを辞めたんだ。
『道場破りスタッフ募集』
ジオンの掲示板を見つけたのはそんなときだった。
俺は、サークルをヤメてヒマしてたし、ヒヤかし半分で道場破りに応募した。
しかし、ジオンにあっという間に叩き伏せられた。
それで俺はジオンの最初の仲間になったんだ。
それ以降、応募してきた連中は何人かいた。
俺は彼らと最初に戦うようになった。ほとんど俺の敵じゃなかったぜ。
俺に負けたヤツらは採用されなかった。
もし、俺の手に余る相手が現れたときは、ジオンが相手をすることになっていた。
そして現れたのがガンカクだった。
いや、鍛え上げたプロレスラーのは、身体が俺たちと全然違うんだな。
俺はガンカクと戦って、絞め落とされちまった(絞め技で気絶させられること)。
プロの凄さを思い知ったぜ。
そのガンカクだって、現役のプロレスラーなのに、ジオンのサソリ蹴りには勝てなかった。
ジオンは凄い女だぜ。
ガンカクも俺たちの仲間になった。
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