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華の高校デビュー
俺の名前は、蒲谷タケル。
常に“ドラマチックな人生”を生きている人間だと自負している。
限られた人間しか経験することができない、転校して来てクラスのみんなの前で自己紹介というドラマすぎる小学校生活も経験済みだ!
しかし、どうやら俺はその“転校生”という肩書きを活かすことができず、小学校生活はあっけなく終わってしまった。
そして可もなく不可もなく、静かに中学校生活を終えた。
だが、俺には、起死回生の一手があった。
小学生の頃はその重要さに、さほど気付いていなかったが、俺には“お隣さん”がいる。
お隣さんには、同い年の女子が住んでいる。
隣に住む幼馴染み。
俺はまさに、将来的に最高の展開が約束されていたのだ!
俺は持っている!
そして、待ちに待った高校生活がやって来た!
ずっとこの時を待ち構えていた!
眼鏡をコンタクトへ、ワックスで髪を立て、今ここに俺の高校デビューが決まった!
『ピンポーン』とチャイムが鳴った。
「おはよー! タケルくん? ちょっと、遅刻するよ?」
玄関まで呼びに来て、この絵に描いたような台詞を口にするのは桐山さくらだ。
「ねぇ、何それ。高校デビューのつもり? ウケるんだけど!」
玄関を開けるなり、彼女は笑った。
「カッコイイだろ?」
「馬鹿じゃないの?」
とか言って、まんざらでもないんだろ?
さぁ、君はいつ俺のカッコ良さに気付き、自分の恋心に気付き、コクって来るんだい?
俺の高校デビューは順調だった。
友達もできたし、クラスでもイケてる方のグループに属している。
「おい、さくら! 屋上に飯でも食いに行こうぜ!」
「え? あそこって、そもそも入れなくない?」
「え!?」
屋上に繋がる扉。
ドアノブを握り回そうとするが、ビクともしなかった。
「嘘だろ!? 鍵がかかってる!!」
「そりゃそうでしょ」
屋上の鍵は職員室にあり、普段は閉められているようだった。
俺は出鼻をくじかれた。
ドラマでよく見るアレは、絵空事だったようだ。
ついでに言うと、自転車二人乗りも、そもそも禁止だ。
ダッサイ白いヘルメットをかぶって、ひとりで漕がなければならない。
夏も近づく頃、俺はさくらに誰もいない教室に呼び出された。
これはもしや?
いや、そうに違いない。
「この間、実は屋上に行ってね」
「えっ!? あそこ閉まってるだろ!?」
「それがなんか、高村先輩のお友達が、屋上の鍵パクって複製してるから、借りればいつでも入れるんだって」
高村先輩とは、二つ上のテニス部の先輩で、女子に大人気のイケメンエースである。
鍵をパクって複製!?
その発想はなかったぜ……!
俺のこれまでの真面目さが裏目に出た。
「でね、屋上で告白されちゃった」
「告白!? え、誰が? え、誰に!?」
「だからー、高村先輩が、わたしに告白!」
嘘だろ! なんてことだ!
いや、だけど、待てよ?
これを俺に言うってことは、アピールしてるんだよな?
止めてくれ、わたしを止めてくれって……。
「もちろん返事は……」
「うん、オッケーしたよ!」
「えぇっ! なんで!」
「なんでって、先輩カッコイイし? イケメンだし? 彼氏欲しいし?」
「……」
「だから、これからはもう、一緒に学校行けないから!」
「!」
「まっ、今日はそのお知らせってことで!」
さくらは、俺ににっこりと微笑んだ。
詰んだ……。
俺は無意識のうちに膝から崩れ落ちていた。
俺はとんだハッピー野郎だった。
さくらを追ってテニス部に入部したものの、女子のスカートばかりを気にしていた。
どうやら、そんなことを気にしている場合ではなかったようだ。
なんなら何故、余裕をかまして告白されるのを待っていたんだ!
何故、俺から行かなかったんだ……。
野球部マネージャーがエースと付き合う暗黙のルールのように、それが初めから決まってたかのように、さくらは俺の傍から遠のいていった。
教室の窓の外に、さくらの姿を見つけた。
どうやら、彼氏と一緒のようだ。
ひとつのイヤホンで、わざわざ同じ曲を聴いている。
何を聴いているんだろう?
少なくとも、失恋や別れの曲ではないだろう。
イヤホンのコードが絡まってイライラするから、ワイヤレスイヤホンが生まれたんじゃないのか?
しかし、ワイヤレスには、あの密着は生まれない。
コードが必要な時もあるんだなと思わされた。
俺は、主人公ではなかったのか?
そんな時だった。
廊下を歩いていると、数冊の本を積み上げ、両手に抱えた彼女が現れた。
走って来た男子生徒が彼女にぶつかり、本はその場に散らばった。
「ちょっと! 危ないじゃない!」
彼女はぶつかって来た男を睨みつけたが、男はそのまま走り去った。
本の状態を気にしながら積み重ねていく彼女の名は、石浦まどか。
いつも教室で読書をしている、物静かな図書委員だ。
「大丈夫?」
「うん」
「これ、どこへ運ぶの?」
「図書室に」
「手伝うよ。なかなか重いだろ?」
「え、でも……」
「いいって、いいって!」
俺は本を抱え、彼女と共に図書館へ向かった。
この展開は!
俺は、新しい恋の予感がした。
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