父が使わなかったCanon Power Shot SX100 IS
父が亡くなって12年になる。
13回忌を11月の初めに行った。
昭和15年生まれの父は、新し物好きだった。
おそらく同じ年代の人たちと比べると、パソコンなどを使いこなしていたと思う。
自宅で商売をしていたこともあり、ネットオークションなどに商品を出品することなどもかなり早い段階から取り組んでいた。
パソコンも、新しいOSが出ると購入していた。
自分が就職して最初の給料で買ってあげたのが、デジタルカメラだった。ちょうど2000年。
ソニーのサイバーショットを欲しがっていた父に、電気街へ出かけて買ってきて、プレゼントした。
最初のデジカメを長い間使っていて、ネットオークションに出品する商品などもそのカメラで撮影していた。
その後、何台かデジカメを買い替えていたのは知っていた。
ところが、この間の13回忌の際に、実家をゴソゴソしていると全く使った気配のないデジカメが出てきた。
開けてみると、一度は封を開いた形跡はあるものの、新品そのもの。
液漏れした乾電池が箱の中に入っていたので、おそらく一度は使おうとしたのではないか。
それを持ち帰って、使ってみることにした。
箱には、830万画素で10倍ズームであることが書いてある。
CanonのHPで調べてみると、35mm換算で36〜360mm相当のレンズがついている。
ISOも1600まで使える。
単三電池が2本で動くお手軽なデジカメ。
こんな商品があったなんて、知らなかった。
デジカメのパッケージの中に16MBのSDカードが入っている。
新しい電池を入れ、電源を入れる。
日付を設定し直して撮影。
電源を切って、もう一度電源を入れると、また日付設定の状態に戻ってしまう。
カメラ本体をよくよく見てみると、時計専用の電池のソケットがついている。CR1220のボタン電池。
これを新品に入れ替えると、日付の設定を何度もしなくて良くなった。
時計専用の電池が切れていたわけだ。
そらそうだ。
父が死んでからでも12年は経っている。
このカメラが発売されたのは2007年の秋だから、そこからずっと電池が入りっぱなしだったことを思うと、電池の寿命が尽きていてもおかしくない。
16MBのSDカードに保存できる画像は、ラージサイズのスーパーファインモードでたったの3枚。
おそらく、この時代はまだカメラのフルサイズで記録するのではなく、画質を落としてたくさん撮影するのが普通だったのかもしれない。
SDカードも今みたいに安くなかったし。
いつものベランダから撮影してみたら、Canonのデジカメらしい感じの写りだった。
キャノンのデジカメって変わらないなぁという感じがすごくする。
2007年にこのカメラを買ったとして、父はこのカメラをほとんど触れずじまいだったのは間違いない。
間質性肺炎が徐々に増悪して行き、だんだんと体の自由が利かなくなっているのを自覚していた。
レントゲン写真やCTスキャンの結果を医師に聞いてから、自分でネットで調べていた節もある。
昔、アスベストなどを使っていた場所で仕事を何年もしていたし、50の誕生日に十二指腸潰瘍で救急車で運ばれるまで、30年以上ヘビースモーカーだったし、肺に負担のかかることをしていたことで、間質性肺炎になっている自分の命の限界を自覚していた。
2008年の春くらいには、入院することはなくとも家の外を出歩くのでさえ、呼吸が辛くてしんどそうだった。
だから、カメラを持って外に出るというのは無理な話だった。
ただし、車を運転するのだけは意識がはっきりとしていたのがすごく不思議だった。
夏過ぎには医師から入院を勧められ、そのまま自宅に帰ることはなかった。
今、父の代わりにシャッターボタンを押している。
なんだか、自分の気持ちがそっくりそのまま、天気の様子そのものの様な感じである。