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消防車になりたい

3歳の男の子が言った。消防士と間違えているのだと思ったが手には車のおもちゃ。その子の夢は、紛れもなく「消防車になること」だった。

私の夢は、なんだったかな。

2020年春に都内の音楽大学を卒業。なんて言うのはこんなにも簡潔且つ淡々としている。18歳で上京し音大生になった。それまでの人生で最も大きな目標は「音大に入学すること」。入学してからは目前の人生をこなすのに必死だったが、常に心の片隅で「夢」を探していた。夢は叶えるものではなく、見つけるものよ。そんなセリフを何かの映画で目にした気がする。

大きくなったら消防車になりたい彼は、母親に連れられピアノの体験レッスンに来ていた。

ピアノ講師になって1年以上が経過。子供が苦手と思い込んでいた大学生までの自分、はじめこそ苦労したが今でははっきりと言える。子供が得意だ。好き、というより得意だろう。子供の想像力と発想力に触れることができる時間。至福でたまらない。そしていつまでも子供の心を忘れないでいたいと考えるのだ。

いつでも自分らしさを追求していたい。人と違う人生、自分にしかできないこと。「女だから」なんて誰にも言わせない。そんな思考を今、外から見ている。若さゆえの尖った考えを、現実を体験した今の自分が居て客観視しているのなら、それが大人になったということなのだろうか。

平穏な人生が、程遠い。

そう感じる。大学を卒業してまだ1年なのに、自分を囲む世界が大きく変わってしまった。「音大卒業してすぐに結婚なんて勿体無い!」そう語り合った友人や先輩たち。ほとんどは今パートナーと住み、結婚はいつにするとか、既にプロポーズを済ませた先輩や同期もいる。それらを遠目で見て、「ああ、勿体ないなあ。」なんて思う自分もたった半年前まで。女性という生き物の、本能なのだろうか。あれほど冒険を望み、刺激を求め「結婚なんて必要ない」と豪語していた自分が今、自分で理解できない。

大人って、寂しいものなんだな。だけどそれって実は、心がまだ子供なのに、無理矢理大人の見かけを演じているせいなのか。

正直に。夢は、家族を作りたい。

消防車になりたい年ごろからすれば、家族を作ることなど「夢」とは言えないだろう。家族を作りたい私からしてみると消防車になることは、とてつもなく大きな「夢」だ。面白いことに、実現不可能な夢を幻想と呼ぶなら、大人になるにつれ幻想の数は増えていく。不思議だ。子供の頃の方が無知で幻想の世界にいられると思っていた。でも知識を得るほどこの世に幻想を作り出していく、なんという皮肉。そういえば、おとぎ話はどれも大人が作り出していたね。

結論はないけど、今私は自分に迷っている。先の人生は長いから、現在迷っているこの瞬間も忙しさの中にいつか溶けてしまうだろう。私は夢を叶える自分をこの時点から見届けたい。だから記しておく。消防車になりたい彼が、消防車になるまでに私はどんな変化を受け入れるのか。

自分らしさは大切に。

Twitterで興味深いことを知った。ピーマンのヘタを上から親指で押し込むと、種ごと簡単に取り除けるらしい。騙されたと思ってやってみて。

キッチン中に種とヘタが豪快に散った。

自分へ。自分らしいやり方というものはきっと、自分を大切にするという意思表明だ。


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