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初登園の日の朝

 それまで見ていた景色が、ふと途切れる感覚とともに、わたしは目を覚ました。なにか夢を見ていた気がするのに、なにも思い出せない。ぼんやりと天井を見ているうちに、左の肩にずしりと重いものが乗っていることに気づいた。頬に触れるのは、娘の髪。起こさないようにそうっと娘の頭をベッドに下ろして、寝室を出た。

 今日は娘の通う幼稚園の、初登園の日だ。昨夜、念入りに確認した通園バッグの中身を、最後にもう一度確かめる。
 娘にとって、これが初めての集団生活となる。大丈夫かな。困ったことがあった時、自分から先生に伝えられるだろうか。他のお友達と仲良くできるだろうか。好き嫌いの多いあの子が、給食を嫌がって、お腹をすかせて泣いたりしないだろうか。過剰に心配してしまうわたしを諌めるようなタイミングで、寝室から娘の呼ぶ声が聞こえた。

「おはよう、ママ」
 娘が上手に喋れるようになってからは、毎日かかさず朝の挨拶をしてくれる。わたしからも、おはよう、を返す。
 2歳くらいまでは、朝の挨拶とセットのように「だっこ」の一言がついてきたものだったけれども、3歳の娘はもう、自分の足でスタスタと歩いてリビングへ行く。その後ろ姿が、頼もしくもあり、すこし寂しくもある。
 大きくなったなぁ。
 それはとても幸せな、親になってから繰り返し口にしている言葉だった。まだ3歳のちいさな女の子。ぐんぐん成長して、気づいた時には、今よりももっと大きくなっているんだろうなぁ。
 事実、今日から娘は園児のお姉さんになる。ついこのあいだまで赤ちゃんのように幼かった、この娘が。
 どうか何事もなく元気で、楽しい園生活になりますように。心から願っているところへ、ママはやく、と急かす声がした。これから日常となるだろう、慌ただしい朝が始まる。

(2020/06/01)№1



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