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会えなくても、彼のもとに綺麗な花を降らせたい

夏の暑さと秋の寒さが混じる、この時期になると毎年思うことがある。
大好きだった愛犬のことだ。今年も命日がそろそろ訪れる。
今でも愛している、そう胸を張って言える。

家族みんなを呼んだかのような最期

彼が最期を迎えた日、奇跡のような日だった。
私はまだ学生で、その日は休日だったので学校は無かった。
普段は母は家にいるが、父は仕事、姉も仕事、私は学校またはバイトという感じだったため、誰か一人がいなかったりと家族全員が集まることはなかなか無かった。私も夜遅くまでバイトをしていたし、アウトドアな姉は休日でも出掛けることが多く家にいる時間が少なかった。
しかし、その日は違った。
いつもならバイトだがその日はたまたまバイトが無く、他にも予定は無かったため私は家にいた。そして姉も、珍しく家でのんびりしていた。父も休日

そんな、珍しく家族全員が揃っていた日に彼は最期を迎えた。
まるでその日まで頑張っていたかのような。
彼が家族みんなを集めてくれたと私は思う。
彼の最期はとても安らかな顔をしていたのを今でもはっきりと思い出せる。
彼はいつもそうだった。
人間よりも空気を読んで気遣いをしてくれる子だった。
最期の最期まで、家族のことを思ってくれる優しい子だった。

でも、正直、後悔だらけだ。
こうやって、この気持ちを文字にして表すのは初めて。

彼の異変には恐らく私が一番に気付いていたはずなのに。
一日でも早く、彼を病院に連れて行っていれば、状況は変わっていたかもしれない。
そして、彼の最期を迎えた日、息をしているうちに一度でも顔を見に行けなかった。前日の夜が最後だった。
今でも思い出す。彼はいつもダイニングテーブルの下に入り、みんなの足元にいて、いつも椅子に座っている私の足の甲にあごを乗せて眠っていた。
前日の夜もそうだった。

なんとなく今書いていて、あごを乗せる意味が気になったので調べてみた。

犬が「あごを乗せる」行為は、“飼い主を信頼し、安心している証拠”だと。
だめだ、涙が止まらない。
私の足の甲はちょうどいいあご置きなんだろうとそれぐらいの感覚だった。
私自身も足の甲に感じる彼の体温が心地よかったから好きだった。
それを今、こんな形で伝えてくるなんて。
私が後悔していることを、気にしないでと言っているかのような。
どこまでも、優しい子で困る。

毎年お盆に会いに来てくれる

その「足の甲にあごを乗せる」という行為を、彼がいなくなってからも体験したことがある。
お盆には故人の魂が帰ってくるというが、毎年お盆に実家へ帰るとそれを感じるようになった。私には霊感やそういったものを感じれる力は一切無いのに。

初めは、彼の匂いからだった。
彼が使っていたベットやおもちゃなどは片づけているし、彼がいなくなってからだいぶ時が経ったというのに、彼の匂いがふわりとした。
咄嗟に振り向いてしまうほどびっくりしたと同時に、彼が帰ってきているのだと感じて嬉しくなった。

その翌年は、彼の足音が聞こえた。
フローリングの床に爪が当たって、“とっとっとっ”と歩いている
よく知った音が聞こえてきた。まさか音まで聞こえるようになるとは。
「あぁ、今年も会いに帰ってきてくれているのかな」と嬉しくなった。

そしてその翌年、ついに「足の甲にあごを乗せられる」感覚があった。
ここまでくるともう驚きどころではない。
おなじみのダイニングテーブルで家族と話をしているとき、椅子に座っている私の足の甲に彼のあごを乗せられた感覚があった。
何も無いはずなのに、はっきりと、あの頃と同じ彼の重みを感じた。
家族と話しながらも涙が溢れそうだった。
しばらく乗っていた重みはいつの間にか、すっと無くなっていた。

それ以降は、匂いも音も感覚も感じなくなった。
なにかを示していたのか、それとも寂しさが消えない私のもとに会いに来てくれていたのか分からないが、確かに私は彼がそこにいるのを感じた。

私は彼のもとに綺麗な花を何度も降らせる

どこかでこの言葉を見かけたとき、心が救われた気がした。
「亡くなった人のことをこの世の人が思い出すたび、天国みたいな遠い場所でその人のまわりに綺麗な花が降ってくる」というもの。
それは犬や猫などほかの動物にも同様だと思う。

私が思い出すたびに彼のもとに綺麗な花が降り、
誰かが自分のことを思い出していると彼に伝わるのではないか。
それなら、私は何度でも彼を思い出して彼のもとに綺麗な花を贈りたい。
たとえ、思い出しているのが私だと彼に伝わらなくても。
彼のまわりに綺麗な花を降らせたい。

だから、いつまでも彼との思い出は胸の中に入れて、時々思い出そう。
忘れることは一生ない。
いつか、虹の橋でまた出会えたら、その時はぎゅーっと抱きしめる。
たぶん、強く抱きしめすぎてまた嫌な顔されるけど。
だからそれまで、もうちょっと待っててね!代わりにお花を贈るから。


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