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幼な子われらに生まれ

あらすじ:中年サラリーマンの信と妻の奈苗はバツイチ同士で再婚し、奈苗の連れ子である2人の娘とともに幸せに暮らしていた。奈苗の妊娠が発覚し、長女が実父に会いたいと言い始める。信の左遷などが重なり、家族の歯車が狂い始める・・・。

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今作品は「家族の再生」をテーマにした作品。脚本は、荒井晴彦氏が担当した三島有紀子監督作品。三島監督作品である「Red」と比べて感じたのは脚本力があれば質が高い映画作品が出来上がるのだということ。荒井氏のシナリオは本当に素晴らしい。

主人公・信は家庭も仕事も上手くいかず、鬱屈した気持ちがマグマのように溜まっている。同僚にストレス解消法で「ひとりカラオケ」を勧められ、エレファントカシマシの「悲しみの果て」を歌う信。

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劇中、カラオケで歌う曲はメッセージ性があるはずで大変重要なシーンだと思っている。「さよならみどりちゃん」という大好きな作品があるのだが、ラストで主人公が歌う曲がユーミンの「14番目の月」「さよならみどりちゃん」のカラオケシーンは大好きな名シーンだ。

そして、信の心に溜まったマグマが大爆発する2秒前。

マンション・リビング(夜)

   長女・薫が入ってくる。

薫:「わたし、やっぱりこの家いやだ」

奈苗:(笑って)「あんた、寝ぼけてんの?」

薫:「パパに会いたい」

信:「どうしたんだ・・・」

薫:(信を見やり)「関係ない人と一緒にいたくない」

信:(ため息)・・・

   奈苗、薫の肩に手をやり

奈苗:「や、やだ・・・。どうしたの?」

   信、奈苗の肩を優しくたたいて、食卓の椅子に座る。

信:「薫ちゃん、座って。話しよう」

   奈苗、薫の腕を取り椅子に誘導しようとするが、その手を振り払う薫。

信:「薫・・・、どうしてこの家が嫌になっちゃったの?うん?パパがいるから?」

薫:「わかんない。でも、嫌なの」

信:「それは、ママや絵里(妹)も嫌?」

薫:「わかんない」

信:「そう・・・。やっぱ、赤ちゃん生まれるの嫌か・・・」

薫:「わかんない!」

奈苗:(少しの沈黙)「(笑顔で)薫。ごめんね。ママが悪い。ママがいけない。ごめん。寂しかったんだよね」

   奈苗、薫を抱きしめるが、薫に振り払われて尻もちをつく。

信:「何やってんの・・・」

   奈苗、お腹を押さえ座り込んでいる。信、奈苗の肩を触り

信:「大丈夫?ねぇ、大丈夫?」

   奈苗、驚いた表情で薫を見やり、信に支えられながらゆっくりと立ち上がる。

奈苗:「あんた、今・・・。あんた、今なにやったの?」

   信と奈苗、食卓の椅子に座る。

信:「そしたら、薫の前のパパと会わせるから。ね?今夜はもう寝なさい」

   奈苗、驚きの表情。

奈苗:「(信に)ちょ、ちょっと待って。そんなんじゃないの」

薫:「前も今もないから。パパはずっとパパだから」

信:「・・・・・」

奈苗:「パパでしょ!!」

薫:「パパじゃない!」

奈苗:「パパでしょ!!!」

薫:「パパじゃない!!」

奈苗:「何言ってんの?」

薫:「家族じゃない!!」

   奈苗、泣き顔で薫の肩を掴みながら

奈苗:「何言ってんのよ、あんたはもう!!パパでしょ!!」

薫:「パパじゃない!!」

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そして、信の心に溜まったマグマが大爆発する1秒前。

マンション・リビング(夜)

   奈苗、食卓の椅子に放心状態で座る。

奈苗:「(薫が)鍵が欲しいんだって・・・」

信:「鍵?」

奈苗:「いちおう(薫が)女の子のお祝いだから何か欲しいものがあったらプレゼントしてあげるって言ったら・・・、そしたら鍵!だって。鍵がないと怖くて眠れないって」

信:「・・・・・・・」

奈苗:「ねぇ、どうしたらいい・・・」

信:「え?どうにもできないだろう」

奈苗:「だって・・・、このままじゃこの家おかしくなっちゃうじゃない」

信:「(少しの沈黙)もともとおかしかったんだよ」

奈苗:「(涙を流して)ひどい・・・」

信:「昨日、沢田さん(前の夫)に会って薫に会うように頼んでおいたよ」

奈苗:「(一瞬、息をのんで立ち上がり)やだ、もう・・・。やめてよ・・・。ねぇ、そういうことやめて」

   奈苗、信に近づき涙ぐみながら懇願する。

信:「もうさぁ・・・、薫は俺じゃダメなんだよ!本当の父親に会わないとダメだと思うよ」

   奈苗、信の傍に座り込み

奈苗:「会いたいわけないじゃない・・・。ねぇ、この間、薫が言ったこと嘘よ。あんなの本気にしないで」

信:「(首を横に振って)いや、あの子は本気だよ」

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信の溜まったマグマが大爆発するシーン。

マンション・リビング(夜)

   信、ソファーに座ってお酒を飲んでいる。その隣に奈苗が座り、お腹を摩っている。

奈苗:「(笑顔で)あっ、動いた。ねぇ、ちょっと触ってみない?」

信:「・・・・・・・」

奈苗:「・・・・・。今日さぁ、病院行ってきたんだけど・・・ちょっと困ったことがあって」

信:「・・・・・・・」

奈苗:「妊娠高血圧症って知ってる?なんか酷いときはお母さんも赤ちゃんも死んじゃう怖い病気なんだって。でね、おしっこにタンパクが出てきちゃったの。それって妊娠高血圧症を起こしやすいって。だからくれぐれも気を付けるようにってさぁ・・・。ねぇ、どうしたらいい?」

信:「・・・・・・・」

奈苗:「なんか年齢のこともあるからって言われたんだけど・・・」

信:「いやっ、もうわかんないよ。何さっきから言ってんの」

奈苗:「え?だから妊娠高血圧症って・・・」

信:「いや、だからそんなこと俺にきかれてもわかんないよ!俺、医者じゃないんだから」

奈苗:「いや・・・わかんないって・・・。でも、さぁあなたの子どもなんだし・・・二人で・・・」

信:「いやぁ、ね!?そうやって自分の体に色んな事が起きるんだったらおろすしかないでしょ!?」

   奈苗、キョトンとした表情。

奈苗:「(我に返り)嫌よ・・・」

信:「嫌だって言われても俺も嫌だよ!!」

奈苗:「嫌よ・・・」

信:「ず~っと考えてる。思うんだけど、今俺たち綺麗に別れられると思う。だから子どもおろして別れよう」

奈苗:「(首を横に振りながら)嫌よ・・・」

信:「このまま(子どもを)おろして別れればいい。だって二人は上手くいってないんだから!」

奈苗:「そんなことない。そんなことないよ・・・」

信:「いやいやいやいやいや・・・あなたがそんなことないって言っても俺がダメでしょ!!もうわかんないよ!あなたがこれどうすればいい、どうすればいいっていうのも全然わかんないし、薫のことも全然わかんないよ!」

奈苗:「それは・・・それは・・・」

信:「絵里(妹)だって何言いだすかわかんないんだよ?!ね?!申し訳けど赤ちゃんおろして離婚するしかないんだよ!」

奈苗:「嫌よ!」

信:「慰謝料とか毎月の養育費とか全部払うから!」

奈苗:「嫌よ・・・ねぇ、ちゃんと話そう」

   信、テーブルに乗せてある鍵を手に取って

信:「ねぇ!?何これ?何?鍵って・・・。そんなに俺に会いたくない?」

奈苗:「(鍵を)捨ててくる、捨ててくるよ」

信:「いいよ!じゃぁ、(薫の部屋の)外側に付けてくるよ!」

   信、鍵と工具を持って薫の部屋に向かう。信を追いかける奈苗。

奈苗:「ねぇ、ちょっとやめてよ。ねぇねぇやめてよ」

   奈苗、信の腕を掴むが振りほどかれて床に倒れる。床に泣きながらうずくまる。

薫:「(奈苗に向かって泣き顔で)ほら、結局この人も同じだったんじゃん。あんた(信)より本物のパパがいい」

と、修羅場を乗り越えて「家族の再生」する荒井氏のシナリオはいつものことながら感銘の一言である。

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