見出し画像

野火

あらすじ:太平洋戦争末期の日本の劣勢が固まりつつある中でのフィリピン戦線が舞台である。 主人公田村(塚本晋也)は肺病のために部隊を追われ、野戦病院からは食糧不足のために入院を拒否される。現地のフィリピン人は既に日本軍を抗戦相手と見なす。この状況下、米軍の砲撃によって陣地は崩壊し、全ての他者から排せられた田村は熱帯の山野へと飢えの迷走を始める。彼の目の当たりにする、自己の孤独、殺人、人肉食への欲求、そして同胞を狩って生き延びようとするかつての戦友達という現実は、ことごとく彼の望みを絶ち切る。 ついに追い詰められた田村は「狂人」と化していく。

画像1

市川崑監督の『野火』は好きな作品なので、塚本監督版『野火』が上映されると知った時は市川監督版を越えられるのかと懐疑的であった。又、塚本監督のダークファンタジー的な作風も苦手なので、失礼ながら今まで塚本監督作品を避けていたということもあって映画館で鑑賞するのを二の足を踏んでいた。しかし、永松を演じる森優作の演技観たさで池袋新文芸坐まで鑑賞しにゆく(2016年4月・塚本晋也監督トークイベント有り)。市川崑監督版と比べながら観ることになるだろうと思っていたのだが、全くそうならず・・・。塚本監督版の主人公田村は絶望に満ちてはいるが、最後まで彼の目に生気が宿っているのだ。又、終盤の永松に対する田村の怒りの演出は市川監督版よりシンプルでわかりやすく心に迫るものであった。そして、市川監督版と違うのが銃撃戦の演出や地べたに転がる腐ってゆく死体の描写である。特に銃撃戦の演出が素晴らしい。弾が腹にあたれば腸が飛び散り、頭にあたれば脳が飛び散る。あんな血肉が飛び散る阿鼻叫喚のシーンを久しぶりにみた。最近は戦争を美化する邦画がもてはやされているが、塚本監督版『野火』はその暗澹たる風潮に一石を投じた名作である。

画像2


この記事が参加している募集

#映画感想文

68,047件

日々観た映画の感想を綴っております。お勧めの作品のみ紹介していこうと思っております。