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思いが溢れた熊本のリサイタル ~CDデビュー記念コンサートを振り返って その2~

リサイタルは修行のようでもあり ~CDデビュー記念コンサートを振り返って~

をまだご覧になっていない方は、そちらを先にお読みください。

2016年、子供の頃からおぼろげに夢に描いていた「CDデビュー」が実現し、嬉しさに浸る間もなく、ラジオ出演やキャンペーンの準備などで目まぐるしい日々を過ごしていました。

渋谷のリサイタルを終え、次の大きな山は、地元熊本県大津町でのリサイタルでした。熊本地震から半年が過ぎようとしていた頃でしたが、町村合併60周年記念の企画イベントということもあり、地元熊本の後援会の皆さんを中心に、大変な応援をしてくれました。

リサイタルの後には、被災地支援のボランティア合唱会、九州縦断のCD発売キャンペーンツアーと、経験したことのないハードスケジュールが控えていたこともあり、東京でも体調管理には気をつけていたのですが、情けないかな、風邪の症状が……。病院へ行き、お守りのように薬を持っていざ熊本へ出発しました。

阿蘇熊本空港から会場となる大津町文化ホールへは、車で15分ほどですが、空港のある益城町、周辺の大津町、南阿蘇村、西原村、御船町などは震災の被害が大変大きかったところ。道中に見える懐かしい景色には震災の傷跡があり、その衝撃がどれほどのものだったのかと声を失っていましたが、私はその震災を経験していません。なんと熊本の皆さんに声掛けすればいいんだろう、音楽で何ができるんだろう、と自問していました。

しかしその景色の中に、私のリサイタルのポスターがちらほら。会場が近づくにつれ、その数は増えているような気さえし、会場にはまるで「WANTED」のように壁一面ずらーっと私の顔が! ポスターには「完売」の文字も。震災後の混乱で、本当に大変な状況の中で、こんなに広報活動をしてくださったのか、と。明日は皆さんがコンサートに来てくれるんだと思うと、こみ上げるものがありました。

空港から会場に直行して行われた音響や照明のテストが終わり、夜は実家へ。震災後、同じ町内で引っ越しをした両親の住む新しい家の表札を見て、この半年両親はどのように過ごしてきたんだろう、と思いながら玄関を上がりました。私を心配させまいと、震災の話はつとめて口にしない両親の気遣いを感じながら、私にできることは明日のリサイタルを成功させることだと、自分に言い聞かせて床に就きました。

いよいよリサイタル当日

嵐を呼ぶ男(?)と異名をもつ私の実力は発揮され、東京に続き、またまた悪天候にやきもきしながらも、直前には空に虹がかかるまで回復。無事、満員のお客さまを迎え開演することができました。

登場から大きな拍手に迎えられ歌い始めたリサイタル。一曲目から大盛り上がりでした。熊本での高校生時代、私が歌うと、第一声で会場がざわめき、時には自分の声が聞こえなくなることもありましたが、その熊本の皆さんの反応が好きでした。久しぶりにその反応を浴びながら、「熊本の明るさってこうだった!」と、しばらく忘れていた感覚を取り戻した時間だったかもしれません。そして会場の皆さんも、日々の緊張から少し解き放たれた時間だったのかなと思います。

そろそろリサイタルも終わりに近づき、震災の話をすることに。
おそらくほぼ全員が被災しているという状況で、何を話せばいいのか、私の一言で傷つけてしまうのではないか、といろんなことを考えていましたが、その場に立つと自然と言葉が出てきていました。熊本弁も交えていたかもしれません。

「自分を育ててくれた熊本のおかげで、このステージに立っています。常に私は熊本の皆さんと一緒に歩んでいきます」

いまの私には何もできないかもしれないけど、気持ちだけはいつも熊本の皆さんといっしょにあるのだと、つたない言葉ながら伝えられたのではないかと思います。

会場のあちらこちらからすすり泣きが聞こえる中、熊本のためだけに用意した曲「Imagine」、そして最後は東京でもラストを飾った「I will always love you」を絶唱しました。たくさんの大好きなYOUに向かって。


サイン会で号泣

リサイタル後にはサイン会も行いました。
懐かしい人たちに会え、「ひさしぶり!」と純粋に再会を喜んでいたところ、「優一君!」とどこか聞き覚えのある声が。小学校1、2年生の時の担任の先生でした。

先生は当時益城町にお住まいで、震災でご自宅が全壊された、と母から聞いていたので、お顔を見た瞬間、そんな状況の中来てくださったのか、と思い涙がこぼれてしまいました。そのあとは、私の涙を見て、列に並んでくださっていた方々も涙。「あんたが泣いたらいかんたい!」と突っ込まれながら。

もっと感情を出した方がよい、と言われるほどリサイタル、コンサートで意外と冷静な私ですが、この時ばかりは、半年間溜めていた涙が溢れてしまいました。

今でも、あの時に会った皆さんの顔が思い浮かびます。昨年の正月以来熊本へは帰省できていませんが、必ずまた一つ成長した私の姿を熊本の皆さんにお見せできる時が来ると信じています。

待っとってはいよ、熊本!

FMK ラジオ番組『木村優一みんなスマイルLet’s Sing!(唄わんかい!)』毎週金曜日6:45~6:55放送中


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