さよなら悲しみ
自分が思うよりも
随分と長く生きたので
私は泣く方法をもう知っている
心をゆるませ、涙腺を解放させてくれる
詩や音楽や漫画や映画を知っている
長く生き延びてしまったおかげで、
私はそれらを見つけることができた。
時間は、私の味方になってくれたのかもしれない。
昔は……
私は思いだす。
昔は悲しさを癒やす方法を探して
見つからなくて
試して
失敗して
悲しみは消えるどころか
地層のように積もってゆくばかりで
悲しい心を救うことに必死で
波にのまれそうで
息ができなくて
なにもかもが私の味方をしてくれなくて
でもそのうちに少しずつ
古い悲しみは波にさらわれて
遠くに流されて
でもその悲しみも、悔しさも
私の生きた証だったから
それは大切な、私の生きた勲章だったから
悲しみは、私だったから
離れていかないように
手を伸ばして、身体にくくりつけて
まるで運命の恋人のように
まるで私の核のように
もういちど飲み込んで、同化させて
でも本当は
それは薄れてもいいものだと
やっと気が付いて
解消されないままに
塵になって消えてしまっても
いいものなのだと気が付いて
それでも私は、悲しかった私を覚えている
心も身体も、ちゃんと覚えている
起きたことは忘れない
ひとりぼっちで真っ暗な部屋で叫んだことも
助けてくださいと神様に必死にお祈りをしたことも
覚えている
ずっとずっと、覚えている
覚えているから、手放していいんだ
さようなら、悲しみ
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